横濱戦術四天王(仮)~マリノスの戦術を読み解く〜

横浜が誇る戦術四天王による、横浜F・マリノスについてのつぶやきをまとめます。 ちなみに、あと2人がみつかりません。

【哲也、小椋の次は特に栗原勇蔵の名を。「勇気と執着」その象徴とも言える存在が、この日の三門だった。 by 蒼井真理】 about 選手評 of [2014-J1-11] 横浜 2 v 0 G大阪

aoi_mari.png蒼井真理


3節徳島戦以来、8試合振りにリーグ戦で勝利したG大阪戦を振り返る。まずは試合直後にマンオブザマッチに指名したGK榎本哲也――それ以外の選手短評から

小椋祥平。戦前の期待を上回る活躍、存在感。何度となく自分のテリトリに入ってくる敵を潰し、絡め取り、速攻の起点になった。谷口博之は「自分の守備テリトリ」が広い(私は好んで「当たり判定が大きい」と表現する)選手だったが、小椋は動物的に自分の狩場、テリトリを動かし獲物を狙う

準備期間ほぼゼロ。チームが連動性の乏しいハイプレスを敢行した事で、小椋と三門は激しく動き全体の間延びを阻止しつつ、時に大きなエリアをケアし無数の「行く、行かない」「注力する、捨てる」の判断を迫られた。だが秩序乏しい展開だからこそ、小椋は樋口監督3年目で最も高い存在感を示した

昨季の組織的で補完性が高いチームには上手く適応できなかったが、守備の秩序が皆無に等しいG大阪戦で「らしさ」を存分に発揮する。戦前指摘した通り、やはり小椋は「ソロプレイヤ」としての資質が高い。守備のテリトリにせよ狩り方にせよ、個の裁量に任せた方が上手くいくタイプ

小椋の狩猟能力の高さは、彼独特の嗅覚と思い切りの良さに由る部分が極めて大きい。浦和戦もG大阪戦も時折、俯瞰で観戦していても予想できない場所とタイミングで刈り取る事がしばしばある。常人には理解できない彼なりのロジック、直感によるボール奪取。それが小椋の真骨頂

2011年の中盤以降に1ボランチを任され「ステイする、リスク管理する」バランス感覚も大きく向上した。浦和戦やG大阪戦でもケレン味あるインターセプトだけでなく、地味にコースを限定したりスペースを埋める作業でも貢献した。しかし小椋の本質はそこにはない

…改めて個性の強い、特徴を組織に落とし込むのが難しい選手だと感じる。だがこの2戦の小椋が見せた存在感には、樋口監督も魅了された事だろう。もともと監督の小椋に対する評価・信頼は非常に強い。今後どうやって樋口監督が小椋の個性を生かしつつ組織を熟成させるか、興味深い

「90分もたそうとは思ってなかったけど、本当に足がつってしまった。そのくらいキツくても、やんなきゃ勝てない事を再確認できた。内容はあまり良くない。やらかなきゃいけない事は多いけど、それより戦う事とか相手より多く走る事を、まずしっかりやりたかった」小椋祥平

小椋の試合後コメントには胸が熱くなる。スタンドのファンは常に心のどこかで、組織的な機能性や周囲との調和よりも本当の意味で戦える選手「チームのためにピッチで死ねる」選手を求めている。G大阪戦の小椋祥平は、素晴らしかった


哲也、小椋の次は特に栗原勇蔵の名を挙げたい。「キャプテンマークを引き継いだ後が特に良かった」という人もいるが、否! 否! この日の勇蔵は90分通して集中力高く、序盤から相手のクサビに対し距離があっても果敢にアプローチして潰し、奪い切れずとも粘り強く対応。責任感あるプレイを貫いた

後半はエリア内までDFラインが押し込まれ、苦しい水際の攻防も増えたが、勇蔵は中澤&哲也と集中を切らす事なく、シュートコースを限定し続けた。G大阪が複数の決定機を外し続けたのは、彼らのミスだけに因るものではない。特にこの日の勇蔵は、課題であるプレイの連続性が高かった

今季ここまでの勇蔵は、チーム全体が新たな方向性・バランス軸を模索して不安定な中で、かなりアベレージの高いプレイを続けていると私は思う。ACLホームの全北戦は集中力を欠き酷かったけど。前線から中盤の守備が覚束ない中で、現在リーグ最少失点なのは両CBと哲也の貢献が大きい


三門雄大は連動性を欠くプレス戦術の中で、浦和戦に続き小椋と2人で中盤に穴を空けぬよう高い集中力と運動量を発揮。その上で攻守両面で大いなる勇気を持って「縦の意識、挑戦」を示した。G大阪戦の勝因である「勇気と執着」その象徴とも言える存在が、この日の三門だった

開幕前に三門雄大は、「マリノスはカウンタで出て行く動きが、後半になって少なくなるイメージがある。そういう時でも自分は走れることが特徴」と語っていた。最近は「外から見ていてチームに足りない部分を補うため、自分の特徴を出す」と。正に有言実行、チームにダイナミズムを生み出した

加入以来、練習試合などで三門は「心身のスタミナと責任感高く、途切れることない集中&関与意欲」を武器に、特に攻→守の切り替えやポジショニング微調整、予測能力を生かしたこぼれ球の回収率の高さを示した。その特徴は右SBよりも、ボランチでより発揮されていた

先発した浦和戦とG大阪戦で、三門は何度となく相手陣内まで縦に長い距離を詰める守備アプローチと、ボールホルダを追い越す動きを見せた。ポジションを捨てる勇気、だが決して蛮勇ではなく高い集中力に基づく冷静な予測と決断。自らの特徴を全面に出して、チームに足りないダイナミズムを補った
伊藤翔は最前線でターゲット役を務めるフィジカル能力は有さない。しかし、この日のように2トップで相手DFの注意が分散され、サイドに流れたり少し下がる事によって圧力が弱まれば、しっかりボールをコントロールし収めるだけでなく「前を向いて」次の仕事ができる。これは伊藤翔の大きな特徴

ストライカとしてもターゲット役としても、あるいはトップ下のパスセンスも突破も「1人で試合を決める」大きな仕事はできない。ともすれば「器用貧乏」な感はあるが、3つの役割(+前線の守備)全てを水準以上のレベルでこなす器用さ、センス、幅の広さ、献身性が伊藤翔の本質かもしれない

G大阪戦は、小椋と伊藤翔の特徴やストロングポイントが改めて強調される試合だった。故に彼らに「出来る事、できない事」が再確認できた気がする。光の強さや当てる角度を変えれば、影の濃さや形も変わる。使い方次第で特徴を発揮できるか否か大きく変わる、個性あるキャラ。面白い


中澤は勇蔵、哲也と共に集中を切らさず、前半は高いラインを維持、後半はシュートコースに身体を投げ出した。水際の集中は流石。CKからのゴールは、リプレイ見直すと相手の守備がヒド過ぎる(マンツーのはずなのに、3人くらいマークを見失ってる)が、確実にミートして良いコースに飛ばした

パンゾーは序盤の接触プレイで傷め「全然ダメ」と語るが、総じて攻守に質は高かった。特筆すべきは40分、中澤のクサビ潰しからのロングカウンタの出足の早さ! あのオーバーラップは絶妙。後半も押し込まれる展開で守備に責任感と粘り、得意のカットインも見せた。素晴らしき小林祐三


下平匠は「高い位置取りを指示され、意識した」事で、攻撃面において特徴を見せた。2トップにしてクロスのターゲットが増えた事も本人が語る通りプラスに働き、惜しいチャンスを演出。ただし、自陣ビルドでの危険なパスミスは変わらず。これは周囲から信頼されパスを付けてもらうためにも要改善

まだ多くのファンからは「昨季のドゥトラ」と比較され、評価が芳しくない下平匠だが、この1か月ほどは試合毎に自らの特徴を出せるシーンが増え、確実にチームにフィットしているように思う。何より相手陣内でボールを受ける、受けようとする頻度が高まり、クロスの本数も増えている

G大阪戦では41分、俊輔からのループパスに抜け出しゴールネットを揺らしたが、惜しくもオフサイド。「コンビネーションで相手DFラインの背後を取る」完全に崩し切りクロスやシュートに持ち込む感覚は、ドゥトラや奈良輪、パンゾーにはない独特のセンス。クロスの球質と精度も良い

開幕前から繰り返し指摘しているが、下平匠は「周囲との距離感、関係性」の中で生きる選手。資質的に小椋とは好対照で、攻守に「1人で何かできる」選手ではない。攻撃面に良さがあるが、まず「複数のパスコース」選択肢を用意してあげないと、基本良さは出ない。彼はドゥトラではないのだ

「複数のパスコース、適正な距離」を保証すれば、下平匠は選択肢の中から迅速かつ高精度で「局面を前進させる最適解」を実行する。その判断精度&速度こそが最大の武器。キック精度とバリエーションもそれなりに高水準。少し年期の入ったファンなら「佐藤由紀彦の左SB版」と理解してほしい

ドゥトラのように「苦しい時に預けてお任せ」は下平匠に対し一番やってはいけない事。ユキヒコと同様、周囲のサポートは必須。守備においても同様で、縦のスピードや運動量はないため、とにかく関係性。ただし空中戦、ヘディングは精度はないが競り勝つ頻度は高い

G大阪戦で下平匠が特徴を出せたのは、4-4-2に変えた副産物。2トップの一方(多くは伊藤翔)とSH、更にボランチと常に3人の選手がボールサイドに寄せたため、選択肢&サポートが増えた。これまでの1トップでは、高い位置取りをしても孤立する事が多く、バックパスが増えた

そもそも「周囲との距離感、関係性」の中で生きる新加入選手に、シーズン序盤から完全な適合を求めるのが誤りだ。確実に、下平匠はフィットしつつある。おそらく1年後には「匠は最初からそこそこやれてたよね」といった評価に落ち着くのではないか。パンゾーがそうであったように

パンゾーも加入1年目、序盤こそ現実的な4-4ブロックの中で堅実性や縦の運動量を発揮してすんなり溶け込んだように見えたが、徐々に遅攻を試みたチームや樋口監督1年目は、周囲との連動性の中には特徴を出せなかった。相互理解には時間がかかるものだ

G大阪戦の選手評が下平匠を擁護する連投になった。自分でも「あんま活躍できてないなあ」と思っていても、不当に評価の低い選手を見ると擁護したくなり、その勢いで愛着湧いて好きになるのは上野良治遠藤彰弘吉田孝行の頃から変わらない性癖


貴重な先制点を決めた藤田祥史。彼の特徴が出た感動的なゴールだったが、それ以外の貢献や関与は(特に伊藤翔と比べると)少し低かった。60分には足が止まったが、それでも端戸に変えなかったのは、樋口監督が「この形」を少しでも実戦で成熟する時間を設けたかったからだろう

藤田と伊藤翔の2トップは、継続すれば関係性が向上し続ける期待感はある。前述の通り伊藤翔が「器用貧乏」的ではあるがマルチな役割をこなす事ができ、セルフィッシュなところがなく非常にチームに対しても周囲に対しても献身的だから、という理由も大きい

藤田の課題は、とにかく練習から伊藤翔と仲良く、コミュニケーションを深める事! 「1人で試合を決められる存在」でなくとも、2人で「1+1=3以上」の関係性を築く事もできる。2007年、坂田大輔大島秀夫の2トップが、それぞれJ1でキャリアハイとなるゴールを決めたように


藤本淳吾、先制点にもさり気なく絡んでいるし、CKからアシストしたキック精度も見事。でも全然こんなもんじゃないでしょ?

新しい王様の存在感は

俊輔は、いろいろ悩み迷い苦しんでいる最中だと思う。いつどこで全てを受け入れて「どの方向に」ふっきるか。フィジカル的なコンディションの問題も多少はあるかもしれないが、問題の根本は気持ちの部分だと思う。結果や内容、ポジションだけでなく、チームにおける自分の立ち位置、果たすべき役割

俊さんに「こうすべき」だとか全然ないです。自分で決断して、自分が正しいと思う事を貫いてほしい。選択次第では樋口監督が苦しい決断を迫られるかもしれませんが、とにかく俊さんにはもっと楽しそうにサッカーして欲しい。今の迷い悩みながらのプレイは、観ていて辛いです