横濱戦術四天王(仮)~マリノスの戦術を読み解く〜

横浜が誇る戦術四天王による、横浜F・マリノスについてのつぶやきをまとめます。 ちなみに、あと2人がみつかりません。

【本来コレが「あたり前」だから。また緩む⇒反省する⇒頑張る⇒緩む ――繰り返すこのマリノス・リズムから卒業しよう。そうしないといつまでも真の強者にはなれない by 蒼井真理】 about 試合総括 of [2017-J1-6] 横浜 2 v 1 磐田

aoi_mari.png蒼井真理



入場者数 38,803人。ホーム磐田戦2ー1の備忘録を連投する

「予想通り我々がポゼッションできる試合展開になり、ある程度は落ち着いて上手くボールを回せた。だがクオリティをもう少し上げていかねばならない。問題は先制後にセットプレイで失点したこと。2点目を取るためもう一度(イーブンな展開から崩していく作業を)やり直すハメになった」エリク監督

Q.やり直すハメになった、とは?

「ホームゲームでは(ポゼッションして相手陣内に押し込み)相手の守備ブロックをどう崩していくかが課題になる。尚且つ、相手のカウンタも警戒しなければならない。そういう丹念な作業を後半もう一度やっていく必要が生まれたという事だ」エリク監督

「自分たちがポゼッションできる展開では、守備の堅さをキープするのが難しくなる。先制した後、少し下がってしまった。ボールホルダにプレスに行けなくなると、守備が非常に難しくなる。今日は途中から入った選手がボールホルダにしっかりと圧力を掛けて守備を向上させてくれた」エリク監督

「前半のうちに同点にできたのは勇気を持てた。(後半10分)アダイウトンが入ってからの10?15分がこのゲームの肝で、1点取れていればという感じだった。負けはしたが昨年のリーグ戦2試合に比べ、マリノスに対してやれる自信が僕自身は持てた試合」名波浩 磐田監督

エリク横浜は先制すると強い。オープン展開になり相手を呼び込み間延びさせれば、カウンタから学やマルティノスがスピード生かし敵陣スペースを存分に活用できる。でも引いた相手を崩す遅攻ビルド、ポゼッションは構築半ばで稚拙。「如何に先制し、リードした展開で試合を進めるか」がエリク横浜の肝

↑コレは昨季のリーグ総括や今季展望でも繰り返し述べたエリク横浜の特徴、強みと課題。で磐田戦は「直近3試合、進捗が見られずチャレンジする姿勢もなかった」遅攻も、質はともかくトライする姿勢は見えた。先制できた。なのに呆気なくまたCKから失点。エリクもいろんな意味「またか」となるわな

エリク横浜は、ポゼッション率やパス本数が優位になる程に得点率や勝点獲得率が低下する。これは今季もまだ変わってない。相手にボール握ってもらい、人数掛けて押し込んでもらった方が(学やマルティノスが使う敵陣スペース生まれて)都合いい。なんだかんだブロック守備はそれなりにカチッとしてるし

でもホームで「意図的にボール保持を放棄して引きこもる」とかダメだし、戦力予算的に下位のクラブからも取りこぼさず上位進出を狙うには、やっぱポゼッションして押し込み相手のブロックを丹念に崩す「リスクもあり面倒くさい」作業を、上手くやれるようになっていかないとダメだよねと。それが現在地

守備もまた同様で「なんだかんだブロック守備はそれなりにカチッとしてる」けど、それは待ち構える受動的な要素の強い守備であり「より前からハメに行く狩猟的な守備」「能動的な(速攻につなげる前提の)攻撃のための守備」の構築は、エリク横浜3年目もほとんど構築進んでません

「勝ったのは良かったが、チームとしての守備でバラバラになった部分がある。今日は前からボールを取りにく守備をしたが、その部分でチームの成熟度がない。練習から整備していけば、去年とは違ったサッカーが見せられると思う」中澤佑二

――とまあ中澤さんも仰る通り「前からハメに行く守備はぶっつけ本番」レベルなのが今のエリク横浜。両翼の突破打開力とブロック守備をストロングにした多分に「堅守速攻」寄りな堅実で現実的スタイル。1年目からポゼッションや、前からハメる守備も「やろうとはしてる」けど、まだまだこれから段階

…こんなに分かりやすいエリク横浜、なんで「方向性が分からない」「スタイルがない、戦術が見えない」とか言う人が未だ絶えないのか全然分からない。スタイルも方向性も、チームの現在地も課題もメチャメチャ分かりやすい。凄く普通。オーソドックス

試合の総括に話を戻す

磐田戦の勝点3以上、プラスアルファで評価できるポイントは正にエリク横浜の課題である「攻は自陣ビルドからの遅攻ポゼッション、ブロック守備攻略」「守は前からハメに行く能動的で狩猟的な守備」に、チームとしても選手個々にもトライする姿勢が見えた事。それに尽きる

3節のアウェイ鹿島戦から指摘し続け前週のC大阪戦なんてその極み的な試合「プレイ原則やゲームプランには忠実だけど」「約束事は守ってますよ感が面に出て」「それを超えていく主体的なトライがない」「プレイが狭苦しい」

今できる事の縮小再生産。課題への取り組み、進歩性がないねと

「新しいマリノス」はまだまだ若く、キャプテン齋藤学が語るとおり「今強いチームでなく、これから皆で強くなっていく」チームのハズなのに、コレじゃダメでしょと。結果も大事だけど、それだけに固執して課題への取り組み棄てちゃダメでしょと。…磐田戦は、ちゃんと反発してチャレンジしてくれた

学は選手ミーティングを開き、エリクも約束事や縛りを減らした紅白戦を実施して選手にダイナミズムを尊重し要求した。選手たちも、それに応えてトレーニングから「課題に挑戦する」「今の自分たちを超えていく」姿勢を示し、それを磐田戦のピッチで表現してくれた。今はクオリティより、その姿勢が大事

「僕がアシストした事より、1人ひとりが走り切って球際で戦い、最後まで戦う姿勢を見失わなかった事が嬉しい。選手ミーティングで意識的な話をした成果は練習でも出ていたし、ピッチに立てない選手のためにも勝たなければいけなかった。C大阪戦とは皆が本当に違った。それが今日の勝因」齋藤学

磐田戦で見えた遅攻のトライ

・序盤マルへの縦ポン多用で間延び誘う
・ダビが引いて受けて前を向く
・↑コレに中澤が縦パスを付ける
・ミロシュの持ち上がり、対角フィード
・マルが内に絞り、大外の松原を使う
天野純の周囲を使うプレイビジョン
・右に相手を寄せて、左の学へ展開

…詳細は選手評で書く。どこまでがゲームプランで与えられたモノで、どこからが選手個々の主体的なアイデアかは分からないが――どちらにせよトレーニングから考え話し合い準備されたものではあるだろう。C大阪みたいな「ボール持ってから迷う」シーンは凄く少なかったから

足りなかった「遅攻の幅と厚み」バリエーションの拡充、それに取り組む姿勢。それを磐田戦でチームと選手個々が示してくれた。もちろん質の部分ではまだまだ全然これから。でもリスク負ってもやんないと、出来るようにはならないから。磐田戦は、取り組む姿勢を最大限に評価したい。これを続ける事

――厳しい言い方をすれば、磐田戦の「攻守切り替え頑張る」「球際で闘う」「攻守の課題に取り組む」とか、ホントはプロとしてはあたり前、最低限スタートラインの部分。前提として、やってあたり前。やんないならピッチ立つなよレベルの話。でも出来なかった事が出来たのは素晴らしいから、評価する

でも本来コレが「あたり前」だから。磐田戦の「闘う、課題に取り組む」姿勢は「あたり前」にしてかないと絶対ダメ。日々の練習から、厳しく互いに指摘し合おう。また緩む⇒反省する⇒頑張る⇒緩む ――繰り返すこのマリノス・リズムから卒業しよう。そうしないといつまでも真の強者にはなれない

…こういう説教臭い意識高い系の安い自己啓発本みたいな事を言うのも、そういう視点でチームも見守るのもなかなか正直しんどいものはあるけれど「新しいマリノス」は常に挑戦者であり続けなければ

リーグ優勝を目指す、その気持ちは大事で高い目標も必要。でもそのために「今できる事」だけに汲々として「今の課題」への取り組む姿勢を失ったり、プレイが縮こまって闘う姿勢を失くしたり、自分たちのミスで萎えるのはダメ。あくまで「今の自分たちを超えていく」姿勢を貫いた先に、リーグ優勝はある

磐田戦はチームとしても選手個々の姿勢も素晴らしかった。それはスタンドのファンにも、分かりやすく伝わった。それは貴重な「分かりやすさ」だ。忘れないで欲しい。続けて欲しい。あたり前にしていって欲しい。続ける事は、反発より難しい。超え続けていこう

新しいマリノスは、まだまだこれから

スタンドのファンも「出来た、出来なかった」だけでなく「やろうとしたか」課題に挑戦して今の自分たちを超えていこうとしているかを見て評価して欲しいと思う。「もう○○は見たくない」じゃなく「もっと出来るだろ?」という期待をベースに見て欲しい。挑戦した上でのミスには拍手を送って欲しい


失点を繰り返す被セットプレイ、CK守備の検証。失点シーンそのものは大井健太郎のシュートを褒めるべきで、マーカを務めていた中澤が瞬間ボールウオッチャになり放してしまったのは、ある程度仕方ないと思う。それより問題なのは後半48分、ドフリーヘッド許した被CKの決定機だろう

後半48分のSB5櫻内渚にドフリーヘッド許した被決定機、その瞬間だけ見ると「また勇蔵のマークミスか!」みたいに見えるが、セットからキックまでの映像を見ると勇蔵のマークはMF8ムサエフであり、SB5櫻内渚には誰もマークがついてない(!)


GK飯倉の前、マークを持たないストーン役としてニアから天野純、扇原、ミロシュの3枚。以下マーカは

中澤⇒3大井健太郎
松原⇒20川又堅碁
勇蔵⇒8ムサエフ
喜田⇒15アダイウトン
金井⇒35森下俊
??⇒5櫻内渚

遠藤渓太はペナアークでこぼれ球拾い役。学は前残り

なぜ基本マンツーマンのCK守備、しかも失点繰り返し「マークを徹底しよう」と練習に時間を割いて臨んだ試合の1点リード後半ATで、こんな致命的なマークミスが生まれるのか?

途中出場SB5櫻内渚は誰がマークすべきだったのか?

前半11分の被CKの担当

ニアのストーン役に、マルティノスとウーゴの2枚。以下マーカは

中澤⇒3大井健太郎
松原⇒20川又堅碁
ミロシュ⇒41高橋祥平
喜田⇒8ムサエフ
金井⇒35森下俊
天野純⇒11松浦拓弥

ペナアークでこぼれ球拾い役がダビ。学はボックス脇で浮いている

さあ前半11分と後半48分ATの被CK守備の、それぞれの担当役割を見て「SB5櫻内渚は誰がマークすべきだったのか」を考えよう! 栗原勇蔵の濡れ衣を晴らすのだ!

真実はいつもひとつ(とは限らない)

セットプレイ守備の映像検証って、結構ロジカルだから楽しいよ。…そういえば練習見学あんましてないけど、今季からセットプレイ守備担当はシゲさんじゃなく力蔵ヘッドコーチに変わったのかな?

ホーム磐田戦で見えた「自陣ビルドからの遅攻」の工夫、相手ブロック守備を攻略するためのマリノスの取り組みの象徴的なシーンをピックアップ。前半44?45分のプレイ

[1]GK飯倉からスタートした自陣ビルド。互いにまだ形は崩れておらず、CB中澤がボール保持。ただ特徴的な部分として、飯倉がボールを持った瞬間に左SB金井は左タッチ際に高く張り出し、ハーフウェイを超えて喜田や天野純より前に


[2]トップ下のダビがセンタサークルから自陣方向に引くアクションと同時に、中澤から強めの縦パスが入る。これにより相手の中盤選手の意識とポジションを引き付ける

[3]ダビはそこそこフリーだが、収めたり前を向かずダイレクトで右SB松原に落とす

[4]松原は足下で受け、意図的にタメを作る。これも相手選手を引き付けブロックを間延びさせるためのスキーム

[5]松原の前方、右WHのマルティノスが急激にターンしてウラ狙いのスプリントを開始。松原もそこにフィードを出すフェイクモーション。この時点で、磐田ブロックの4枚が後ろ6枚から少し分断され間延びしてるのが1つのポイント

「6」松原はマルティノスへフィードは出さず、自陣中央から左サイドにかけ完全フリーのCBミロシュへ横パス。再度、磐田ブロックが前4枚と後方6枚で分断されてる事に注目。マルティノスのウラ狙いスプリントで、縦方向の間延びは強調されている

「7」ミロシュは大きく開いた自陣左サイドをドリブルで持ち上がる。敵陣では、金井と学、天野純の3人が磐田の後方6枚のブロックを同サイドに寄せている。磐田のブロックは既に崩れ、後手の対応になりつつある

[8]ミロシュは前方の学へパス。学は敢えてタッチ際高く張り出さず、金井より後方で受け1つタメを作る事で、またここで磐田の守備者の意識とポジションを引き付け、より前のスペースにギャップを生じさせる狙い

[9]学とのワンツーのスルーパスから、天野純が左サイドタッチ際を抜け出そうとする。ここはパスの球足が長く天野純もそんなにスピードないのでDFに対応されたが、この磐田戦での象徴的な自陣ビルドからのブロック攻略

結果的にシュートや決定機には至らなかったが、最後にスルーパスに抜け出しかけた天野純に対応したのはボランチのムサエフとCB大井健太郎であり、中央の2枚がサイドに釣り出されている。磐田のゾーン守備は「サイドに寄せてスライド対応」だが、寄せた後のケアが杜撰であり、中央と大外が薄くなる

磐田戦のマリノスの自陣ビルドからのブロック攻略は、磐田のゾーン守備の傾向と脆弱性を把握した上での明確な意図があり、上手く実践できていた好例。先制点もこの型の亜種。スライド対応が杜撰で、中央と大外のケアが脆弱。これは名波浩が監督になってからJ2時代からずーっと改善されてない

マリノスの自陣ビルド、前節のC大阪戦から良化したポイントは

・左サイド学と金井、天野純の3人
・↑強みである連携だけに依存せず
・左サイドに渡す前に「ひと手間かける」
・まず中央から右サイドに相手を寄せ
・マルのウラ狙いも撒き餌に使い
・相手ブロックを縦横に間延びさせる

・金井が左タッチ際に高く張り出し
・スピードあるSB高橋祥平を引き付け
・学は最初からタッチ際には張り付かず
・やや低め、内に絞り受けて
ミドルサードで1度引き付けて
・更にラスト1/3のギャップを生み出す
・全部「学なんとかしろ」でなく
・チーム全体で「ひと手間」かけた

・新潟戦のSB矢野貴章
C大阪戦のSB松田陸
・スピードとフィジカルあるSBには
・学でも単純なデュエル完勝は難しい
・磐田戦の対面SB高橋祥平
・スピードと対人能力は高いが
・移籍後初先発で不慣れな右SB
・加えて金井が上手く高橋を引き付け
・学や天野純にスペースを提供

・磐田戦のダビや天野純に対し
・バックパスばっかりだなと
・そんな声も少なくありませんが
・マルティノスはセルフィッシュで
・組織的打開、戦術的に機能しないと
・そんな批判もありますが
↓のブロック分断、間延びは彼らが作ってる