横濱戦術四天王(仮)~マリノスの戦術を読み解く〜

横浜が誇る戦術四天王による、横浜F・マリノスについてのつぶやきをまとめます。 ちなみに、あと2人がみつかりません。

★新春★【エリク横浜が本来志向してきたスタイル(手法、選択肢)であり、積み上げ要素もある。期待の新戦力が、如何にフィットするか by 蒼井真理】 about 2016年終盤2戦における、ポゼッションの向上について

aoi_mari.png蒼井真理

――エリク横浜2年目最終盤、イブの天皇杯準々決勝 吹田戦の前半(と準決勝 鹿島戦の前半)に見せた「自陣からのビルドアップとシンプルなコンビネーション」驚きであったポゼッションの向上についての考察(ほぼ想像と妄想)を連投する

■そもそも出来ていたのか?

出来ていませんでした。

今季リーグ戦では「ポゼッション率が高い&パス本数が多い試合ほど勝てない」というデータも残っている。リーグ終盤と天皇杯4回戦の新潟戦は「前半、自陣ビルドが引っ掛かり相手のプレスにバッタバタ」が見慣れた光景

■やろうとしていたのか?

エリク1年目から就任直後のトレーニングからやってました。本当です。吹田戦前半のベースとなった「シンプルな自陣ビルドからのトライアングル+1」コンビネーションなどは昨季4月上旬のアウェイ柏戦でも形として見られる

■2015年04月09日(木)
https://t.co/og53VbnD2n

エリク横浜1年目、アウェイ柏戦「相手ブロック内で」「トライアングル+1」エリクの遅攻コンセプトが体現された決定機(連投の後半部分:キャプ図解) pic.twitter.com/KR3IDkVzBR

― 蒼井真理 (@aoi_mari) 2017年1月2日


■なんで出来てなかったのか?

レギュラGK、DFラインをはじめ「ワンタッチ、ツータッチで繋ぐ」技術と適性や経験値の低い選手が多かった。中盤も俊輔や中町ら中心選手が志向にフィットせず。エリクも中庸の人なので、無理にやらせるより新加入したアデにゴリゴリ運ばせる事で、代用した

2年目の今季は、アデがいなくなり再び組織的にビルドの質を上げる必要性が高まったが「飯倉⇒哲也、ファビオ⇒勇蔵」のレギュラ交代で、自陣からの繋ぎは絶望的に。リクも妥協し「両翼頼みの糞サッカー」に落ち着く。シーズン終盤、育ってきた若手を活用し来季を見据え再着手エ

「俺はどっちかというとタイプ的にはリケルメみたいな感じで、遅攻にしてしまうところがどうしてもある」中村俊輔 2013年

――あとはぶっちゃけ俊輔が、いるといないでマリノスのサッカーは良くも悪くも「別物」になってしまう(特にエリク横浜においては) 離脱と再合流を繰り返し、エリクも俊輔を中心に据えるのかパーツとして割り切るのか見切りつけるのか…中庸の人なのでグッダグダに

■吹田戦や鹿島戦は、何が違ったか?

・タッチ数が少ない。GK、DFラインからワンタッチ(ダイレクト)、ツータッチでのパス回しで相手をいなし、こちらのボール回しに対し相手がポジションを修正し自陣ブロックを整え迎撃体制を整える前に崩しに掛かる

・相手守備ブロックの側ガワでなく、内側・間あいだの隙間にパスをビビらず入れて行く。自陣でも。可能なら半身で受けてターン(前を向く)無理なら、シンプルにダイレで戻してやり直し。テンポよくボールが動く

マリノスにありがちな「ポゼッションのためのポゼッション」マイボールを失わない事が最優先でなく「チャンスに結び付ける」「よりシンプルに時間をかけず相手ペナ付近まで運ぶ」「相手3ラインの背後を取っていく」「前へ縦へ裏へ」の意識、目的やプレイ優先順位が徹底されていた

・無駄な横パスやタメ、持ち返し切り替えしコネコネを可能な限り排除する。そのため全体の距離感を保ち、周囲はボールホルダが「ボールを持つ前に」パスコース、選択肢を作るポジショニングとボディシェイプ(身体の向き)を心掛ける

・特に敵陣、より圧力の高いエリアでは「ペナ角のやや内側」あたりを起点に、エリク就任1年目前半から取組んでいた「トライアングル+1」そこからのワンタッチ、ツータッチのポストやフリックなど「トレーニングから準備されたコンビネーション」を発動

・キーワードをまとめると「タッチ数の少なさ」「ボール保持そのものが目的ではない」「縦への意識」「背後を取る意識」「適切な距離感」「シンプルなコンビネーション」――目的と手法を明確に共有できた、という事

■何故できるようになった?

●互いのコンディション、試合の入り方

・吹田戦の前半は試合の入り方が良く、相手はあまりよくなかった。エリクの試合後コメント通り、強度の高い入り方ができて皆の頭と身体がよく動き、ポジティブに6週間のトレーニングで蓄積してきたものをトライできた

・端的に言えば吹田の前線からの圧力が「強すぎず弱すぎず」適当なレベルであった。後半はマリノスが前半ハイペースで飛ばした疲労と、リードしやや受けに回り吹田が前に圧力を強めたために、自陣での繋ぎが引っ掛かる(4回戦の新潟戦のように)シーンが増え、押し込まれた

・逆に4回戦の新潟戦は、後半は新潟が前半にハイプレスを続けた新潟が疲弊し守備の限定が低下し、マリノスのビルド&ポゼッションは向上している

・つまり「互いのコンディションや疲労度次第」の面は大きく「新潟戦の前半」と「吹田戦の前半」を比べると「急に出来るようになった」ように見えるが、新潟戦の前半と吹田戦の後半は結構同質であるし、その逆も然りである

天皇杯準々決勝、準決勝の今季ラスト2試合で「突然すごく出来るようになった」ように見えるが「エリクが2シーズンかけて地味に積み上げたもの」も背景にあるし、その一方で「彼我の状態やメンバ構成により表現できるパフォーマンスは変わる」つまり完成度はまだまだであるのも事実だ

●離脱者続出で合宿からメンバ固定

・起用の選択肢は限られたが、結果的に「エリクが志向するスタイル(少ないタッチでシンプルに前に運ぶ)への資質と適応力の高い」25歳以下の選手がピッチに多く配され、ベテランの中澤や哲也もスキルは不十分ながらスタイルに適応しようとする姿勢は高かった

・トップ下に入った前田直輝富樫敬真と「縦関係の2トップ」的に、よく動いてペナルティボックス近辺における選択肢の拡充に大きく貢献した。吹田戦と鹿島戦の前半、良コンビネーション崩しの多くの局面に、前田直輝は直接的に関与している

前田直輝本人は「相変わらずトップ下では迷子になる時間が多い」と反省の弁も聞かれるが、前線でシンプルなコンビネーションが発動する良い時間帯は、前田直輝が抜群のタイミングで顔出しをしており、距離感と密度と選択肢を向上させている

・負傷の伊藤翔に代わりCFに入った富樫敬真も前線のターゲット役として質の高い仕事をこなし、ボランチ天野純と喜田(鹿島戦は中町)縦関係の2トップ富樫敬真前田直輝、この4人が「自陣からの質の高いタッチ数少ないビルド&ポゼッション」の軸となった

・自陣からのビルドアップの軸は喜田と天野純ボランチ2人だが、富樫敬真前田直輝の2人の貢献、スタイル適応も素晴らしかった事は改めて指摘しておきたい(来季は同ポジに新戦力補強もあるだろうが、2人とも頑張ってほしい)

・何処まで「中断期間の練習からメンバが限られ」「エリクの志向するスタイルに適応力の高いメンバが多かった」が理由かは想像の範疇を出ないが、特に吹田戦の前半は「これはトレーニング通りだろうな」と思わせる、決め打ちコンビネーションが多く見られた(今季ここまで凄く少なかった事)

●勇気と自信、開き直り

・自陣から繋ぐ、隙間にパスを入れる、相手に囲まれながらパスを呼び込む事に「おっかなびっくり感」が無かった。特に喜田や天野純は驚く程に自信を持ち飄々と取り組んでいた。理由と背景は様々あろうが、特に吹田戦はメンタル的な準備の良好さも要素として大きかった

・このスタイルに挑戦する姿勢、できるんだという自負、自分たちが中心となって成立させるという責任感…

■今後(来季)の可能性

・まだ「相手次第」な部分は大きく手応えも部分的ではあるが、エリク横浜が本来志向してきたスタイル(手法、選択肢)であり、積み上げ要素もある。今後中軸を担うであろう選手たちの適性と取組む姿勢も高く、期待値は高い。あとは期待の新戦力が、如何にフィットするか