横濱戦術四天王(仮)~マリノスの戦術を読み解く〜

横浜が誇る戦術四天王による、横浜F・マリノスについてのつぶやきをまとめます。 ちなみに、あと2人がみつかりません。

【16大島。コイツはヤバい。たぶん天才だ。マリノスと学ちゃんはこの試合、彼を軽々しく放置し過ぎた by 蒼井真理】 about 詳細レビュー of [2015-J1-1] 横浜 1 v 3 川崎

aoi_mari.png蒼井真理


――昨日の川崎との開幕戦、映像で最初の失点シーンを振り返ったら、次から次へと気になるディテールがでてきて静止画でソレを説明しようとしたら24枚になったw

昼間からキチガイ連投するから、迷惑な人はフォロー外したりブロックしたりしてね?

■2015 1stステージ第1節 横浜1-3川崎
 前半3分 エウシーニョのゴールシーンを振り返る
 (アシスト:小林悠

[01]1:44 川崎3バック中央、3角田誠からの遅攻。横浜は4-4-2ブロック。淳吾と学が、遅攻のキーマン14中村憲剛と16大島僚太ボランチ2人を見る形だが、より14中村憲剛への注意が高い
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[02]1:46 16大島僚太が少し引いて、3角田誠からパスを引き出す。14中村憲剛に意識が向いていた学は、既にやや後手の対応 
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[03]1:47 16大島僚太が眼前に大きなスペースのある状態で、前を向いてボールを持ち出す。まだハーフウェイを越えてないが、横浜にとって、あまり良くない展開ではある
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[04]1:49 ドリブルで運ぶ選択肢もあったが、16大島僚太は左WB20車屋紳太郎へのパスを選択。彼のマーク担当は右SHで先発した奈良輪。ちなみに筑波大の先輩後輩
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[05]1:50 奈良輪は無難に20車屋紳太郎の縦のドリブルコースを切る。16大島僚太はパス&ゴーで、間あいだで受けるポジションを取っている
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[06]1:52 20車屋紳太郎は16大島僚太にはパスを付けず、3角田誠にバックパス。「やり直し」ではあるが、実はこれも地味に局面を前進させる布石になる
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[07]1:55 3角田誠からビルドアップの「やり直し」。しかしこの何気ないパスの出し入れで、学の視野と意識から完全に16大島僚太が消え、大きく放してしまっている
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[08]1:57 再び16大島僚太が少し引いて、3角田誠からパスを引き出す。しかし[02]1:46と比べ、パスを受ける位置は高く、学との距離は離れよりフリーな状況。両WBの位置も高くなっている
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[09]1:58 16大島僚太が眼前にスペースのある状態で、前を向いてボールを持ち出す。11秒前の[03]に比べ、ハーフウェイを越え、学との距離も広がっている。これが[04-06]での何気ない出し入れの効果。局面は前進している
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[10]2:01 16大島僚太はドリブルで運ぶ事を選択。対面する富澤は奪いに行く守備でなく、定石どおり中を切ってサイドに追い込もうとする。奈良輪は16大島僚太のドリブルに意識を割かれ、左WB20車屋紳太郎を少し放す。後手後手の始まり
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[11]2:03 16大島僚太は左WB20車屋紳太郎へパス。これも[04]に比べ、1.位置取りが高く、2.16大島僚太に付いているのは学でなく富澤。間違いなく川崎の遅攻局面は前進している
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[12]2:04 パスを受けた20車屋紳太郎は、右足で内側に回り込む動き。これが地味に賢く、富澤は20車屋のドリブルと16大島僚太へのパス、両方に備えるポジションを強いられる
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[13]2:05 20車屋紳太郎のこの動きは、奈良輪と富澤2人の意識(風間監督の言う"矢印")を自分に向けさせ、その後背に味方が使うスペースを生み出す。16大島僚太はバックステップで富澤から離れ、前を向いて受けるスペースへ移動
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[14]2:05 20車屋紳太郎から、前を向いた16大島僚太へパス。富澤は不自由な二択を迫られ、中途半端なポジション。パスカットやトラップ瞬間のインタセプトは難しい
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[15]2:06 16大島僚太は1stタッチで、慌てて距離を詰めた富澤を外しドリブルで縦へ。16大島も巧いが、富澤の守備対応は軽かった。20車屋紳太郎はパス&ゴーで奈良輪を引っ張り、16大島のドリブルコースを提供
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[16]2:07 富澤が16大島僚太に外された事に気付いた奈良輪は、20車屋紳太郎を捨てて16大島の縦のドリブルコースを消しに行く。これは奈良輪らしい素早い反応
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[17]2:08 凄く地味なフェイクだが、16大島僚太は一度「中を見て」奈良輪の縦を消す動きを止めてレナトへのパスコースを作る。こんな瞬間のルックアップ、目線のフェイクはスタジアム観戦じゃ絶対に気付けないw
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[18]2:09 16大島僚太は10レナトへパス&ゴー。奈良輪は勢い、レナトをパンゾーと2人で挟みに行く形になり、16大島を完全に放してしまう。10レナトは2タッチ、左アウトフロントで16大島にリターンパス。鮮やかな連携プレイ
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[19]2:11 奈良輪とパンゾーは完全に置き去りにされ、ペナ角で勇蔵は16大島僚太のドリブルと11小林悠のマーク、両方を見るどっちつかずなポジションを強いられる。中町が急いで11小林悠を捕まえようとするが遠く、完全に手遅れ
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[20]2:12 16大島僚太は一瞬中を向き勇蔵の意識を前に向けて(実に芸が細かい!)その背後のスペースに11小林悠の動き出しに合わせ、右足でアングルを付けた絶妙のパスをエリア内に転がす
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[21]2:13 勇蔵は11小林悠に完全に背後を取られる。エリア中央の中澤が全速力でカバーに入るが、これも完全に手遅れ。ファーサイドでは下平匠と右WB18エウシーニョの駆け引きが行われている。ちなみに13大久保嘉人は、まだ画面の外
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[22]2:13 11小林悠は走り込んでファーサイドへのシュートを選択。哲也は、ニアを切ってファーに打たせた時点でGKとして最低限の仕事は果たしている。が大外、右WB18エウシーニョが猛然とスプリント開始。頑張れ下平
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[23]2:14 下平のクイックネスでは如何ともしがたく、大外で18エウシーニョに押し込まれる。このゴールの瞬間、画面の外から兵藤を追い越して13大久保嘉人がエリア中央に入っているのもポイント
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■横浜、守備の難点
 ・学の限定の仕方が雑、16大島を放し過ぎ×2
 ・富澤の守備が軽い。[15]はファウルでも止めるべき
 ・[18]で奈良輪が16大島を放す。仕方ない面も
 ・中町のアラートの低さ。[19]の手前で少し落ちてれば
 ・下平のクイックネスの低さ。前提条件だけど

誰か1人に決定的な責任はない。小さな不備の積み重ね。どこかで止まっていればミスと呼べないミス。もろもろ結果論でもある。後手後手の始まりは学だが、 そもそも左SHをずっとやってきて、FWとしての限定守備をトレーニングしてない。ぶっつけ本番で1トップ起用した監督にも、責はある

■川崎、遅攻の巧みさ.1
 ・チームとして遅攻の完成度が極めて高い
 ・複数の"矢印"を1人に向けさせ、その背後を使う
 ・相手に後手を踏ませ、不自由な二択を強要する
 ・ベースとなる遅攻のトリック、イメージ共有がハイレベル
 ・足下の技術とサッカーIQの高い選手を時間かけて揃えた

■川崎、遅攻の巧みさ.2
 ・この得点に関しては16大島僚太がマジでヤバい
 ・プレイの連続性、ルックアップフェイク×2とか天才か
 ・20車屋紳太郎も、本当に地味に賢い
 ・最後に大外から詰める右WB18エウシーニョ
 ・CB3角田誠ボランチに付けるパスも、何気ないが正解

――角田にしても、なんとなく大島に付けてるだけに見えるが、大島の意図を理解したタイミングでの「正解」のパスな訳で。これと同じことを中澤や勇蔵がちゃんと狙いをもって出来るかというと、まあ多分できない。無駄に持ち替えたり横パス挟んで、局面は前進しない

…何気なく映像を分析し始めて静止画使って要素指摘しようと思ったら、とてつもなく冗長になった。こんなに細かな要素が詰まってるとは思わなかった。正直、後悔している

細部まで理解・共感してもらおうと思わないけど、サッカーの試合、1つのゴールには実に複雑な要素が絡まってて、唯一絶対の解や評価(たとえば失点の犯人とか)なんて存在しないって事は知ってほしいかも

だから専門紙の選手採点や短評とか、カラオケの採点マシンと同じかそれ以下に意味ないよ。あると読んじゃうけど。1人の記者が、11人以上の個々のプレイ全てを把握するとか、映像を2?3回ぶっ通しで見返しても不可能俺だって普段はこんなに細かく試合を眺めたり、映像で振りかえったりしない(疲れる)し、特に試合中ディテールに気付く能力は全然高くない。もっと漠然と、シーズンを長いスパンで見て全体の流れや選手のパーソナリティを分析するのが好きだし

閑話休題。…しかし、16大島僚太の遅攻の質を高める「正しい選択」の連続、そのための細部への拘り(細かな動き直しとか、目線のフェイク)にはマジで驚いた。コイツはヤバい。たぶん天才だ。マリノスと学ちゃんはこの試合、彼を軽々しく放置し過ぎた

ただ、映像を見ると明らかに学は、もう1人のボランチ14中村憲剛に意識を割かれており、その結果として16大島僚太へのケアがユルユルになっている。あるいはチームとして「藤本淳吾と2人で、憲剛には絶対に自由にやらせるな」という約束事があったのかもしれない

実績と実力を兼ね揃えた偉大な選手は「直接ボールに関与しなくても」「その存在だけで」相手チームに迷いや不利益を与え、味方選手に自由を提供したりする。横浜の中村さん(俊輔)だって、同じことです

だから大島僚太の、この先制点に絡む一連のプレイを見て「ああコイツはスゲー天才だ、川崎は憲剛の後継者問題も解決か」と思ったけど、今の大島僚太の輝きは「中村憲剛あってこそ」の部分も大きいのかな、と

憲剛がいなくなって、自分にマークが集中した時にも、大島僚太は今と同じ質を保って仕事ができるか、と。中村憲剛谷口博之みたいなサッカーIQがアレな 選手とも一緒にやって、常に川崎の攻撃をリードし続けてきた。積み重ねたモノ、意味合いが違う。今の川崎は、どんどん先鋭化し続けてるし

…フォロワが減りそうな連投ですね。別にフロンターレの話がしたい訳じゃないんですけど。これは横浜の中村さん、俊輔についても言えるテーマです

――その流れで、俊輔の事を考えよう。あれほどのプレイビジョン(試合展開を洞察しコントロールする術を知る、常に2手3手先を読む力)を持った選手はリーグでも稀有な存在。でも、それって「周囲と共有してこそ」十分に発揮できる能力なんだよ

思いがけず昨日の選手評の連投(俊輔や藤本淳吾)と内容がリンクしました 『2015リーグ開幕を前に、レギュラおよび準レギュラ格の選手評、今季への期待をまとめて連投(160 tweets)

先制点の理由を映像で振り返るだけのつもりが、考察がずいぶんと拡散した。「大島僚太マジでヤバい」⇒「中村憲剛なんもしてねえけどスゲエ」⇒「同じ意味で俊輔もやっぱスゲエ」⇒そして到達点は、「マリノスにおける中村俊輔の孤独」

昨季の日立台、柏との試合で「小椋祥平がチャレンジの縦パスをガンガン入れる」その横で、悲しそうに首をふる俊輔を思い出した。どんなにプレイビジョンに 優れ、細やかな配慮ができても、それを共有してくれる選手が周囲にいなければ、その資質を生かす機会はとても限られてしまう

特にマリノスは、半ば伝統的にサッカーIQや丁寧にパスを繋ぐ遅攻センスがアレな選手が多く、自分たちでアイデアを発揮するより「シンプルなルールを与えてくれたら、一生懸命がんばります」なタイプが多いから…

2013シーズンに俊輔が素晴らしく輝いたのも、本人がシーズン後に述懐したとおり、謙遜でもなんでもなく「周囲が自分を支えてくれたから」俊輔も気持ちよくプレイできて、周囲の良さを引き出し、チームを牽引できたんだな――と、改めて思った次第

レジェンド級の実績・経験値を備えるマルキとドゥトラがいて、サッカーIQと自主性の高い富澤と中町、やたら気の利く兵藤が俊輔の脇を固めて。やっぱりあのシーズンのマリノスは、特別だった

――いつも通り、完全に着地点を見失っていますが、もう少しだけ続けます

最後に、もう1つ映像検証で気づいた事。[24]静止画で指摘したが、それまで画面の外にいた大久保嘉人が兵藤を抜き去りエリア中央に走り込んでフリーになっている。中村憲剛と同じく、この得点には全く絡んでないけど、コレは何気に凄味あるプレイだ

結果的に小林悠のアシストになったが、あれは絶対シュートだと思う。大外への絶妙なクロスになってしまったのはマリノスにとって不運だった。哲也も、良いポジショニングと体勢をとっていたから、シュートが枠に飛んでいれば多分、さわる事ができていた

しかし「シュートが枠に行って哲也が弾いていたら」絶妙なタイミングで兵藤を抜き去りエリア中央に走り込んでいた大久保がプッシュして得点した可能性も、 非常に高い。「やっぱ2年連続得点王は伊達じゃねえな」と。相手の視野や意識から消えてボックスに入り込む感覚がハンパねえ

得点王になる選手は、決めたゴールの何十倍、もしかしたら何百倍も「この場所にこのタイミングで走り込めば、ボールが来てチャンスになるかも」その作業を、何度も執念深く繰り返すから得点王になれる

「私はサッカー選手である前に、ストライカ(点獲り屋)だ」と言ったFWが昔いたような。ミランの現監督だっけ? 大黒将志なんかも、正にそのタイプですね

だから昨季の練習試合の話を蒸し返して悪いけど、藤田祥史が自分へのパスがDFの足に引っ掛かって「あー」って天を仰いでプレイを止めた(けどボールはコロコロ足下に転がってきてた)とか、ストライカとしては有り得ない、絶対やっちゃダメなこと

無理くりまとめ的なもの
 ・映像、静止画検証は面白い。でもソレで全部を説明はできない。ディテールでしかない。サッカーに絶対的な正しい評価なんてものは存在しない。全部後付けで、印象論。結果論。サッカーはカオスなスポーツ。「本質的には言語化できないもの」を言語化する作業が楽しい

・記録や印象に残るのはゴールやアシストという結果。数値化できて分かりやすい評価材料。でも見逃しやすいけど、その結果に繋がる、時にもっと大きな価値ある良プレイや、小さなミスもある

・質の高いプレイを積み重ねることが大事。それが選手のクオリティであり、長いスパンでみると結局それが結果と評価につながる。この先制点で言えば、大島僚太の一連のプレイ・クオリティや、ゴールには全く絡んでない大久保嘉人の動きは、もっと評価・注目すべき