横濱戦術四天王(仮)~マリノスの戦術を読み解く〜

横浜が誇る戦術四天王による、横浜F・マリノスについてのつぶやきをまとめます。 ちなみに、あと2人がみつかりません。

【ただプロを目指す選手たちの指導者が「ブラジルと日本は違う」と言ってはダメだと思うのです。究極的には「本気でプロを目指すのか、降りるのか」の二択。 by 蒼井真理】 about 育成における食事とメンタルについて

aoi_mari.png蒼井真理


『日本代表がW杯で優勝する日 /中西哲生 /朝日新書』は昨年11月初版。氏のサッカー観に特に興味ないが、俊輔との対談で気になった発言を引用するためだけに購入。…俊輔曰わく、ユースに昇格できなかった「トラウマ」を振り返り

「ジュニアユースだと練習が終わるのが夜の9時。練習前に立ち食いソバを食べるけど、家まで2時間かかるから、帰宅が11時になる。それまでにお腹がすくから、みんなと練習後に炭酸飲料と菓子パンを食べる。そうすると家で晩ご飯があまり食べられない。これが良くなかった」中村俊輔

 「身長も伸びなかったし体もガリガリだった。中学2年の時に3年の試合に出ていたのに、3年になると試合二出られなくなった。成長期に僕は伸びなかった。今思えばいろんな間違いをしていた事が分かる。桐光に行って背が伸びたから良かったけど」中村俊輔

…俊輔はマリノスのジュニアユース時代「炭水化物万歳!」な食生活もあって背が伸びずガリガリであった、と。今のジュニアやユースも小さく細い選手は多く、公式戦の後にみんなでマックで買い食いする姿を見たりすると不安になる訳です。もうちっとクラブの食育も徹底すべきでは、と

単純に成長の事だけを考えれば自宅から45分以上かかる14~18歳の選手は皆寮にし、バランスとタイミング良い食事と、睡眠時間の確保が望ましい。しかし海外の育成先進国でも思春期に親元から離すのは功罪両面あって必ずしも情操教育の観点から宜しくはないと言われてますし。難しいところ

マリノスに比べ、柏U-18なんかは、体格の良い選手が多い。もともと「技術や判断は伸ばせるが、身体やスピードは持って生まれたもの」という価値観でピックアップしてる&フィジカルトレーニングも大きな差だと思うが。久米さんGM時代に、育成組織の食事環境も随分と整備されたらしい

誤解してほしくないのは「マリノスの育成が間違っている」とか「成長期の選手は身体の成長“だけ”を優先すべき」と言いたいのではない、と言う事。様々な考え方、育成哲学がある。思春期には「友だちと買い食いする」体験、その記憶も人として大切なもの。プロになれるのは極めて限られた選手ですし

ただ、現実のマリノスユースを見ると海外や一部のJクラブ育成組織に比べ、「素材」として扱う(可能性を限定しない)期間が長めに設定されており「プロになるため最後のステップ」という意識は希薄に感じます。無論それも、どちらが正しい間違っているという類の話ではありません

例えば、高卒でプロを選択する「リスクとリターン」や「普通に生活する」難度(経済情勢や失業率、貧富格差)は、サッカー強豪国の多くで日本とは大きく異なる。日本はまだまだ「普通に生活する」就業・金銭的な難度は低く(幸福度は別として)高卒でプロを選択するのは「ハイリスク・ローリターン」

例えばブラジルには「自分含めた一族郎党が貧困から脱するには、自分がサッカー選手かミュージシャンとして一旗揚げるしかない」地域もあり、そこで生まれ育った15歳と、同じ価値観やハングリーさを「大学サッカー経由で潰しが利く」選択も可能なユース選手に求めるのは、あまりに無理がある

だから近年のマリノスの「よほど確かな才能や高いプロ意識を確認できる選手以外は、高い可能性を感じても昇格を見送る」「大学での成長を見守り、そこで活躍すれば獲得する」「可能性を限定しない」方向性は、価値観や判断が熟成してない若者の将来を預かる立場としては極めて妥当だと思います

この「大学サッカー経由でプロを目指す選択肢もあるよ」「すぐにプロで活躍できる保証はない」という声がけは、鹿島のスカウトも高卒選手に対し必ず行うと、フットボールサミットの記事にありました。ただ同時に「4年後に再びオファーする保証もない」とも付け加える、と

日本で、南米や欧州並みに若い才能が大きな伸びシロを持ったまま早くからプロで活躍し始めるようになるには、育成哲学の多様化や、C契約や契約金の縛りが緩和される必要があるのか? それとも経済と雇用情勢が変わり貧富格差が拡大し「俺がプロで一旗揚げるしか」な若者が増える必要があるのか…

しかし日本でもマリノスでも、喜田拓也のような鋼のプロ意識を持った若者、小野裕二のような極度の「負けず嫌い」で良い意味で反抗的な特別変位態が現れるのが、実におもしろい。サッカー先進国にも豆腐なメンタル選手は、たぶん腐るほどいるだろう。地域性より個人のパーソナリティ、なのか

ただプロを目指す選手たちの指導者が「ブラジルと日本は違う」と言ってはダメだと思うのです。究極的には「本気でプロを目指すのか、降りるのか」の二択。「スパイク脱ぐまで、絶えず誰かと比べられ、競争する世界に身を置く覚悟はあるのか?」その問いかけじゃないかと。そこにブラジルも日本もない