横濱戦術四天王(仮)~マリノスの戦術を読み解く〜

横浜が誇る戦術四天王による、横浜F・マリノスについてのつぶやきをまとめます。 ちなみに、あと2人がみつかりません。

【「能動的にリスクかけて得点を奪う」スタイル、来季以降を見据えても貴重な手応え by 蒼井真理】 about [天-4回戦] 横浜 3 v 1 栃木

まずは昨夜の天皇杯・栃木戦を振り返る。トーナメントの勝ち上がりという結果はもちろん、土曜の広島戦を含むリーグ戦ラスト6試合に向けて、3日前の柏戦に続きハッキリとした手応えや収穫のある試合だった

【収穫その1】エースの復調:柏戦は1得点もプレイ内容は今ひとつだったマルキーニョスハットトリック。しかもポストプレイ、フリーラン、前線からの守備、球際の強さ、身体のキレと、何れもかなりの仕上がり。広島戦に向けて期待が高まる出来で、66分にお役御免。起用時間も含めパーフェクト

【収穫その2】優平と端戸の存在感:2列目で同時に先発起用された2人が、伸びのびと気持ちの入ったプレイを見せ存在感を発揮。79分から入った小椋も含め、柏戦から続けてBチームの選手たちが、自分の色を出しつつチームに勢いを与え始めた。来季以降を考えても非常に良い傾向だ

【収穫その3】ダイナミズムの回復:これも柏戦から続く流れで、優平たちが存在感を発揮する中で「前からの連動したプレス」や「縦に早く人数をかけた攻撃」「リスクをかけても得点を奪いに行く積極性」といった能動性・ダイナミズムを2試合続けて表現できた


栃木戦も、柏戦に続いて「立ち上がりから積極的に大量点を取りに行く」ゲームプランを踏襲し「可能ならベテランは途中で休ませる」意図はあったはず。その事によりカウンタのピンチも少なからずあったが「意図した展開を自分たちで作り出せた」事はチームとして好材料

90分トータルの決定機数は5:5。勝敗を分けたのはマルキーニョスサビアクリスティアーノの決定力の差とも言える。しかしだからこそ「エースが勝負を左右する仕事をし存在感を取り戻した」「リスクを背負って能動的な展開に持ち込む中で複数得点を奪い勝ち切った」事がより強い意味を持つ

2列目両サイドの優平と端戸は「できるだけ前でプレーして、ラスト1/3でどれだけ多くのプレイ機会を得られるかをテーマとして送り出した」という樋口監督の期待通り、下がり過ぎる事なく前線でポジションを変えつつ積極的にチャンスに絡んだ

栃木戦は今季初めて兵藤が先発を外れ、前線バイタル付近でのハブ役不在が懸念されたが、マルキが少し落ちてポスト役をいつもより多くこなしたり、サイドにマークを引き連れ流れて端戸や優平が飛び込むスペースを中央に提供したりと、若い2人を引き立てる気遣いを見せた

これは以前、学が不在時に端戸が先発していた時期も見せたマルキの気遣いあるプレイ。不思議なのは、端戸にはこんなに優しいマルキが何故、藤田にはほとんど協調・共存の姿勢を示さないのかと言う事。端戸や優平はまだ若いから、なのか…?

ともあれ栃木戦のマルキーニョスは、兵藤が不在で俊輔の調子も今一つの中、八面六臂の活躍を見せて(とくに少し落ちてのポスト役とキープは秀逸)しかも端戸や優平の良さも引き出しつつ3得点。文句なしのスーパーな活躍を見せた。広島戦も頼りにしてます

端戸はマルキの気遣いもあったが、サイドに張りつかず頻繁に中央に入り込む積極性を見せ、ウラを狙うフリーランも多く、また球際でも強い気迫を表現。北九州時代を思わせる意外性あるミドルも見せ「端戸らしさ」を随所に見せつつ躍動。あとはゴールやアシストの結果だけ

優平も柏戦に続いて運動量豊富に、プレスとフリーランでチームにダイナミズムを与えた。82分の自陣エンドラインまで戻ってのカバリングは優平のスタミナや献身を示す真骨頂。一発で奪い切る強さには至らないが、跳ね飛ばされず踏ん張り、相手のファウルを誘うまでは対人の強さも成長している

小椋も10分ほどの出場であったが、一度見たかった「富澤・小椋・中町」という中央の組み合わせの中で、それなりに持ち味を発揮。クローズに入る時間帯だったので富澤より低い位置取りもあったが、今度は「富澤を底に置き、中町と小椋が2人で連動して狩りに行く」ハイプレス特化型も見たい

決定機数は互角、1失点の理由には複数選手が万全でなかった。富澤は復帰初戦はいつも細かいミスを頻発、パンゾーも格下相手に緊張感を保てない。勇蔵とファビオはよくロングボールを跳ね返したが、勇蔵はファビオの扱いが中澤ほど巧みでなく、ファビオは奪ってからのパスミスがあまりに多過ぎた

そんな中でも左サイドで普段通り、あるいはそれ以上の活躍を攻守に見せる不惑の鉄人。1点目のアシストとなるミドルパスは見事。改めてドゥトラのビルドアップにおける貢献、今季信頼性を高めた守備対応を見るたびに、賞賛の念と同時に「広島戦はいない」不安が想起された。奈良輪がんばれ

ファビオと勇蔵の距離感が近く、一方でCBと両SBの距離が遠い。この隙間を利用されるピンチの起点は多かった。両SHの特性から中盤より前が中央に寄り、SBが高く張り出すシステムの構造的問題でもあるが

…とは言え、両SBを高く張り出すスタイルもハイプレス&ショートカウンタも本来、樋口監督が掲げるマリノスのスタイル。むしろ今夏あたりからの「過剰なほどリスクをコントロールしようとするポゼッション志向」の方が(俊輔と富澤の趣味に引っ張られ)少し方向を違えていたのではないかと思う

どちらが「正解」という事もない「違い」や趣味性の問題だが、両方を展開によって使い分けられるのがベターだし、チームの引き出しになる。またマニアックな観戦派以外の大多数にとっては、攻守の入れ替わりが激しい樋口監督が本来掲げるダイナミズム重視のサッカーの方が好まれると思う

俊輔は栃木戦も序盤から、特に守備の運動量多く奮闘していたが、パスやトラップに「らしくない」ズレが頻発し、最終局面の仕掛けやセットプレイの成功率も低い。ここ数試合「チームを鼓舞する奮闘」は見せるが、調子そのものは良くないように思う

なので尚更、2点差となった62分以降、俊輔をピッチに残す意図が解らなかった。66分にマルキを下げた同じタイミングで、俊輔も替えて欲しかった。狙いがあるとしたら「藤田1トップに俊輔とプレイする機会を」「セットプレイで1点欲しかった」今後を考えると、より後者が理由か

マルキの復活も嬉しいが【収穫その2】優平と端戸の存在感、【収穫その3】ダイナミズムの回復、この並行する2つの収穫は、選手層と戦術プランの双方の意味でチームのオプション拡充になり、来季以降を見据えても貴重な手応えとなる

今夏に「リスク管理しつつ遅攻・ボール保持」スタイルが確立していた(が少し行き詰っていた)中で、この2試合「能動的にリスクかけて得点を奪う」スタイルを「優平や小椋、端戸らが存在感を放つ」中で「結果を伴う成功体験を得て」改めて確立できた意味は非常に大きい

例えば広島戦、今季のベスト布陣で「遅攻・ボール保持」に寄ったスタイルでスタートし、仮に先制されてしまっても優平や小椋、端戸を途中起用して「柏戦や栃木戦の前半みたいにやろう」で意思統一できる。監督も賭けでなく自信を持って、優平たちを起用できる

ナ杯準決勝2ndレグの柏戦、天皇杯・栃木戦の2試合は、リーグラスト6試合そして来季以降に向けて、選手層と戦術プランの拡充という意味で大きな意味を持つ中3日の連戦だった。…と後により積極的評価ができるよう、広島戦とそれ以降を良い結果にしなくては

――いつかハマトラ紙の表紙コラムにも書いたと思うが、サッカー監督にせよチームや選手たちの内容的な積み上げにせよ「結果が出た時にだけ、過程である内容や上積み、そのための地道な努力が"振り返って"評価してもらえる」 それがプロ、と言えばそれまでだけれど本当に厳しい世界だねえ