横濱戦術四天王(仮)~マリノスの戦術を読み解く〜

横浜が誇る戦術四天王による、横浜F・マリノスについてのつぶやきをまとめます。 ちなみに、あと2人がみつかりません。

【「斜め前へのパスを多用し、サイドと中をバランス良く使い分け」「深みあるサイドチェンジを多用」は今季始動からのコンセプト。ようやく実戦で形が出せるようになり、結果にも結びついた。by 蒼井真理】 about 2014 第28節清水戦&第29節大宮戦でみえた、新たな/確かな「積み上げ」について

aoi_mari.png蒼井真理


(第29節Away大宮戦の)得点・失点シーンを映像で振り返ると、スタジアムで気付けなかった発見がアレコレあった。よって「清水戦・大宮戦の前半で見えたコンセプトと可能性、大宮戦の後半に見えた課題」については、またそのうち…

えーと端的に言えば、清水戦のTweetでも試合中・試合後に指摘した通り、「斜め前へのパスを多用し、サイドと中をバランス良く使い分け」「深みあるサイドチェンジを多用」は今季始動からのコンセプト。ようやく実戦で形が出せるようになり、結果にも結びついた。これは確かな積み上げであると

加えて清水戦および大宮戦の前半は「収める力・決定力を有する1トップ」不在でも、同じシステムの中で「2列目やボランチも流動的に守備ブロック内のパス交換に関与」「相手ボランチの脇を使う」「ボールホルダを追い越す動き」など、相手陣内・中央における遅攻の質と幅が大きく向上

2012後半~昨季は絶対的1トップ・マルキーニョスと左SBでタメを作れるドゥトラがいて、齋藤学も効果的な「仕上げの突破」を繰り出していたため、遅攻のほぼ全てが「左サイドのペナ角崩し」に偏っていた。それはそれで実効性、完成度ともに高かった

…全然、端的になってないが、ちゃんと書き記しておくべき事だから、もう少し続けます

今季は、マルキーニョスという(1トップで収まる、決定力もある)絶対的な存在がいなくなり、FW4人に完全な代役が務まる同タイプは不在。加えて、ある意味「左サイドのペナ角崩し」最大のキーマン、ドゥトラも半年で引退。齋藤学は代表⇒いつ移籍するかわからん⇒怪我&不調

ドゥトラに関しては、ACLもあったし半ば「下平匠への引継ぎ期間」として無理を頼んで半年契約延長したが、リーグ戦では基本、フィットに問題ありつつも下平匠を我慢して使ったし、ドゥトラも夏場まではなかなかコンディションが上向かなかった

えーとつまり、今季は樋口監督が昨季ようやく積み上げた、マリノスに過去なかった「遅攻の型」左サイドのペナ角崩し、その重要なパーツの大部分を失った状態でスタートした訳です。で天皇杯優勝+積雪+ゼロ杯+ACLフルコンボ

昨季の遅攻キーマンを失い、代わりに獲得した新加入選手たちにチームのベースコンセプトを植え付けてフィットさせつつ「彼らの特性を生かした新たな遅攻の型」を考え、テストし、実戦の中で熟成させなければならない。という無理ゲー状態でスタートしたのが2014シーズンです

伊藤翔矢島卓郎、端戸や藤田には残念ながら、新たな遅攻コンセプトの軸としての強烈な1トップ&ストライカ特性が、マルキほど高いスペシャルな武器がありませんでした。それは過去実績や、ひらたく言えばコスト的にも、素人目にも最初から明らかな事でした

樋口監督としては、昨季の積み上げをできるだけ多く活用するために「できるだけマルキに近い適正、あるいは能力をもった1トップ候補」を獲得要請したはずです。ですがご存じの通り、それは敵わず「質より量」の補強で、彼らの成長・変異に賭けるシーズンスタートになった

ピッチで最も、このスタートを「無理ゲー」と感じていたのが、俊輔だったと思います。昨季のリーグ最終戦の結果を受けて、今季目指すならリーグ優勝しかない。頭では分かっていても、「いやしかし、このFWの顔ぶれ、準備期間のなさとACL含む過密な序盤日程では…」

目指す高みは変えられようもないけど、戦力の低下と新たな積み上げに取り組まなければならない、積み上げつつ勝点も拾っていかねば、でも拾い切れない。その焦燥・もどかしさから、昨季見せたような勝利・守備における「執念」が、今季は大幅に減退してしまった。人間だもの

なんか全然、簡潔にならんし、どんどん遠回りしてるな。下書きしての連投じゃないから

少し軌道修正。で「マルキに近い適正、あるいは適正や方向性は違えど近い能力を持つ1トップ候補」を獲得できなかった樋口監督は、始動から「より手数をかけて、サイドチェンジを多用し、サイドを深くえぐる」「SBやボランチが、相手SBのウラを取るような」すごく面倒くさい取り組みに着手します

これは「絶対的な1トップがいない」事を受け入れて、「よりチーム全体で、サイドを崩す」「2列目やボランチの得点力に期待する・引き出す」取り組み。昨季までの積み上げも部分的に取り入れつつ、特定の個に依存し過ぎず、下平匠藤本淳吾の特性、齋藤学のスキルをより活用するアプローチ

現状認識(FW4人にマルキほどの個の強さはない)も、昨季までの積み上げを部分的に活用しつつ・新加入を含めた現有戦力の特性・スキルを引き出そうとするアプローチも、至極まっとうなモノだと思います。すごく時間がかかり面倒な取り組みですが

少し話をすっとばしますが、実際のところ、なかなか新たなコンセプトは形になりませんでした。リーグ3連勝の後は、上手く勝点を積み上げられずACLも厳しい状況となる中で、「新たな遅攻のコンセプトの積み上げ」は、ほぼ一時棚上げ状態になっていたと認識しています

新コンセプトが進捗しない&伊藤翔が望外の頑張りを見せてくれたので、おそらく樋口監督がとった選択は「大幅に能力も実績も劣るのは承知だが、伊藤翔に仮想マルキを演じさせ、昨季とほぼ同じコンセプトで進める」「足りない得点は学と藤本淳吾あたりに期待」「新コンセプトは、ジワジワ浸透」

今になって今季の戦いを振り返れば、おそらくそんな思考パターンであったのではないかと。その結果が、シーズン中盤の停滞感。「樋口、引出し少な過ぎ」「伊藤翔にマルキの代わりは無理に決まってるだろアホか」に繋がったと

つまり今季は昨季ラスト2試合の悔しい結果を受けて「もう一度、俊輔とリーグタイトルを狙う」しかなかったけれど、マルキのほぼ完全コピーが務まるようなFWが獲得できなかった時点で、ほぼ詰んでいた悲壮な無理ゲーでした

もし大宮のムルジャみたいなFWをオフに獲得できていれば、そして彼が即座にフィットしてくれていれば。でも序盤のドゥトラのコンディション、下平匠は1人でタメを作れるタイプじゃないし、新コンセプトの確立は不可避な課題で、かなり難しいタスクであったろうと推測します

しかし「結論、下條が無能!」というのも、少し短絡的だと思うのですが。マリノスが独自にハイパーな外国籍選手を獲得できたのは、記憶する限りマグローンが最後。彼は彼でハイパーすぎて、使い切れないまま獲得に使った資金も回収した様子ないまま「家族の事情」とかで逃げられましたが…

ご存じの通りマリノスは2006、07あたりから日産が「常識的な範囲でほぼ無制限に赤字を埋めてくれる」親会社的な立ち位置を、一定額を供給する胸スポンサに改めました。経営の自立を促され、戦力補強、とりわけ博打的な外国籍選手獲得からは、ほぼ手を引きました

他クラブが独自ルートで(過去にJリーグやKリーグで実績のない)優良外国籍を獲得し、大きな戦力とする事を羨ましく思う気持ちは理解できます。でも隣の芝生は青く見えるもの。全部が全部、当たりなんて有り得ない。やっぱり金銭的リスクは、相当高い訳で

特にここ数年のマリノスは、その金銭的リスクを背負える状態になく「博打的な外国籍選手獲得」からはほぼ完全に降りて、多少ロートル感あってもJで実績ある外国籍の獲得に絞っていたと。それは色んな意味で、大きく間違った選択ではなかったと思います

ああ樋口監督擁護の次は、下條統括本部長擁護でTweet数が無駄に伸びて、なんか「今季のコンセプトについて」という本筋から脱線している… いやでも「どうしてこうなった」をスケープゴートを作らず語るには、大事な要素なんです。…どうせあんま伝わらないだろうけど

――よし、もう一度話を本筋に戻そう。えーと何だっけ

「マルキの"ほぼ完コピ代役"は獲得できず」「(主として遅攻の)新コンセプトに着手せざるを得ない状況で迎えたシーズンであったが」「オフが短い、序盤はACLとの過密日程で熟成期間もとれない」無理ゲー要素満載、だった

で「シーズン半ばは、伊藤翔を劣化版マルキに見立て、昨季に近いスタイルでお茶を濁し時間と勝点を稼ぎつつ、日程に余裕ができたら少しずつ新コンセプトを伸ばしていこうとした」「が勝点拾えず、早々に優勝争いからは脱落」「引出しの少なさだけが目に付いた」と

樋口監督は、ほんとうに時間をかけてスタイルやコンセプトを積み上げて確立していくタイプの監督です。愚直なまでに正攻法のドストレートであり「うまく臨機応変に、お茶を濁しつつ勝点も稼ぐ」「平行してスタイルを確立する」とか、やっぱり無理だったんです資質的に。能力的に、ではなく

基本、私は樋口監督の「地道にスタイル・コンセプトを積み上げる」資質を高く評価してきたつもりです。多分に「実は俺もちょっと"どうなんだろうなあ"と思うとこもあるけど、あんまりにも実質からかけ離れた批判多いから、擁護してあげたい」天邪鬼な動機もありましたけど

ぶっちゃけついでに告白すれば、今季長い中断期間があって、再開した広島戦、そこからの数試合を観て「やっぱり引出しが少な過ぎる」「ベースコンセプトも昨季より、今季できない率がむしろ増えてる」「選手たちの気持ちを繋ぎとめるにも、さすがに今季で限界か」と思ってました。この1、2か月は

ただ、この2試合、清水戦と大宮戦を観て、今季始動から取り組んできた「遅攻の新コンセプト」が、ようやく実戦の中で形になって現れました。しかも確かな実効性と娯楽性、勝利という結果も伴って。しかも昨季より個への依存度が低く、かつてのマリノスになかった「意外性や即興性」があり、楽しい

そうやってプラスの視点で振り返ると「今季ここまでの流れと清水戦・大宮戦」は「樋口監督1年目の流れと、ホーム磐田戦」にかなり類似性が見られるな、と。とにかく樋口監督の積み上げは、実戦で形が見えるまで時間がかかる。そして「主力が不在で、仕方なく組んだ布陣に突如、最適解が出現する」

そしてその「コンセプトが形として見える試合の相手は、強すぎず・弱すぎず(ガチガチに引かず中途半端)、マリノスの良さや新コンセプトの輪郭と強みが強調される⇒勝利で自身を深める」2012年のホーム磐田戦、そして今季前節の清水、今節の大宮。…1stガンダムで言うデニムとジーン?

「主力が不在で、仕方なく組んだ布陣に最適解が出現する」「コンセプトが形として表れるタイミングで、試合の相手が強すぎず・弱すぎず」この巡り合わせって、運なんだけど大事な要素。これが噛み合わず消えて行った「理想のコンセプト」や「強者となる可能性あったチーム」は、星の数ほどあるハズ

当然「仕方なく組んだ布陣に最適解が出現する」のは、日頃からチーム全体にコンセプトの落とし込みをしつつ、様々な組み合わせを想定していたからで、運だけでは成り立たない。でも、運も多分に必要。そして、樋口監督は「2シーズンスパンで眺めれば、その運も持った積み上げ型の監督」ではないかと

清水戦と大宮戦を観て、今季の樋口監督3年目に、1年目の姿、チームの変遷・進化過程がダブって見えたのです。2012年はあのホーム磐田戦で大きな衝撃(いきなり完成形が見えた)を受け、その後のリーグ戦と天皇杯で「来季はリーグ優勝狙えるかも」と期待を抱くことができました

だから「これは3位以内にはならない方がいい、天皇杯も決勝まで行かないほうがいい、ACLは出ないほうがいい」って言ったらすげー叩かれましたけど。でも実際、今季の結果を見ても、2013年にACLに出てたら優勝争いは難しかったと思うんです

また脱線した。つまり、この「樋口監督じっくり積み上げ2年スパン説」が正しければ、来季はそれなりに正しい補強(ラフィの契約更新+できればポストタイプの強力FW+プラスα)が適えば、2013年のように優勝争いできるのではないか、と思った次第。樋口監督4年目があってもいいのかな、と

今季の始動前から「無理ゲー感満載」で6月を待たずに「いっそもう早く可能性なくして、ラクにさせて…」と思った、ほとんど諦めかけてた「俊輔とリーグタイトルを獲る」という夢が来季見られる、もしかしたら叶うんじゃないかと。それは新監督に賭けるより、樋口監督に託す方がベターかも、と

まだ、直近たった2試合を観て、なんとなく直感的に思った考えなので、自分の中でも確かなモノではありません。残りリーグ5試合を観て、またコロっと掌返さないという保証もありませんけど。でも、少し希望の光が見えたような気がしたんです

まあ俺がどう考えようと、信じようと信じまいと、結局一番大事なのは樋口監督がコーチも2年やって今季監督3年目で本人も、指導を受ける選手たちも、マンネリだったり変化を求める気持ちが生じて当たり前の時期。それを来季、乗り越えて行けるかっつーのが、最大の問題になると思います

だからラスト5試合、(それこそ2012のシーズン終盤のように)手応えある勝ち方で「この方向性で熟成すれば、来季は上を目指せる」とテンション上がる終わり方をできるかが、とっても大事。そんで長めのオフでしっかり疲れとって怪我なおして、身体つくって良い補強できれば。…夢を見たいんだ