横濱戦術四天王(仮)~マリノスの戦術を読み解く〜

横浜が誇る戦術四天王による、横浜F・マリノスについてのつぶやきをまとめます。 ちなみに、あと2人がみつかりません。

【「2トップが絶対解」ではないが「誰のため、何のための1トップか」という疑問。マルキ不在についてもこの際全部書いておく。 by 蒼井真理】 about 昨季と今期のシステム論、特にFWについて

aoi_mari.png蒼井真理


練習試合からのスカイビルでランチしつつのマリノス談義。解散からのドトールで1人まったり。練習試合は数少ないボッチじゃない時間なのでレポートはキックオフ前にブツ切りになるのです。備忘録は夜中か早朝に気が向いたら。でもあまり新しい発見や感動はなかったかな…

1本目はシュート5本で決定機4、2得点。大学生を相手に「効率良く」とは言い難い。もっとチャンス、シュートの回数を増やしたい。どんなテーマで臨んだのか気になる所。ボランチが小椋&三門から、富澤&中町に変わると、当たり前だけど同じシステムでも全く別物のチームになる

選手の特徴や目指す方向性を考えない単純なシステム論は無意味。単に同じシステムにしたからといって、選手が変われば同じスタイルの「再現」は不可能。昨季の1トップはマルキーニョスというスペシャルな個に依存する部分があまりに大きかった。と、いなくなって気付く感じる部分が多い

今季リーグ戦序盤、伊藤翔の1トップには「昨季に近い補完関係」の可能性は感じた。しかしそれで勝点を積み上げるには、2列目と3列目にべらぼーな得点力が要求されるだろう。中町と富澤、小椋や三門にしても現状「流れの中では年イチ」なタイプ。マリノスにスティーヴン・ジェラードはいない訳で

矢島卓郎の特異なパワーや意外性に得点力を求めつつ1トップを任せるなら、それは昨季の4-2-3-1とは全く異なるアプローチになる。端戸や藤田にしても同様。個人的にも「2トップが絶対解」ではないが「誰のため、何のための1トップか」という疑問は、現状のチーム構成を考えるとある

2トップ、G大阪鳥栖との戦い方にも当然ジレンマはある。2トップと中盤が「能動的な守備、ハイプレス、縦に早い」を体現しつつ、鳥栖戦のように相手FWに分かりやすいターゲットが存在しCBが警戒、駆け引きすると間延びしてバイタルがスカスカ。「勇気もって押し上げれば」って話でもない

夏にターゲット役が務まり且つ後半戦だけで10得点が期待できるFWを獲得したとしても「昨季の再現」は不可能。単純に、藤本淳吾も使い切りたいしドゥトラへの期待値も低下している。昨季は俊輔も「あれほどカチッとハマる事は、めったにない」と評した通り、奇跡的なレベル。再構築は不可避の課題

鳥栖戦は、相手のストロングポイントや「鳥栖の狙い、豊田陽平を相手にはラインを押し上げ切れない中澤と勇蔵」といった要素に、あまりに無頓着にコンセプトを貫こうとした結果と内容であったと思う

G大阪戦で良かった「結果」部分(多くは勢いや勇気といった精神的なもの、と運やターンオーバの流れ)だけを踏襲しようとして、チームとG大阪戦のマイナス部分や対処的な方向に目を瞑ってしまった。あの鳥栖豊田陽平を相手にもライン押し上げ対応仕切れるなら、中澤はW杯メンバに選ばれるべきだ

現実的には「どんな相手にも自分たちのサッカー、コンセプトを貫く」よりも「対戦相手、状況による使い分け」保有戦力を最大活用し引き出しを増やす事、か。ただ「オプション」を増やすにも「(再構築が必要な)ベース」は必要、特に樋口監督の性格的に。樋口さんはネルシーニョではないから

さて中断期間中に「新たなベース」を築きつつ「引き出し」オプションにも着手できるか? G大阪戦と鳥栖戦ではそのための良い教訓を得られたと思うが、時間は限られている。リーグ優勝を争うために、落とせる勝点も


樋口監督が就任以来、貫くコンセプト「攻守に能動的」にブレはなく、それに対するチーム内での意識共有も進んでいる。数多の成功、失敗体験もある。そこは「積み上げ」としてあると思います。樋口監督は本人も認める通り、細かなルール設定で選手を縛る強権的なタイプではない

ざっくりした理想(能動的、つまりリアクションは可能な限りやりたくない)があり「イメージを伝え、じゃあそれを体現するため、どうするか」をいろんな組み合わせを試し、選手と対話しつつ「完成形」を模索していく。より細かな戦術指導は小林ヘッドコーチに託す、選手の判断に委ねる部分も

分析家、アナライザで参謀資質が高めだけど、完璧主義者でも理想主義者でもない。良くも悪くも中庸の人。俊輔、中澤、勇蔵の3人を使い切り「理想を貫く」なんて不可能で、できるサッカーは限られる。その中で最適解を、実戦と対話から模索する。あるいは「状況が背中を押してくれるのを待つ」

マルキーニョススペシャル性について。以前も書いたけど、今季いなくなって気づいた大きな彼の存在感は、前線からのプレスにおいて。プレスのスイッチ役、展開におけるメリハリをマルキが作っていたという推論

昨季のマルキは、対戦相手や展開によっては露骨にサボる局面も多く、私は少し不満だったし年齢的な衰えも感じていた。でも勇蔵が最近も「昨季はマルキが前線で煽ったら、皆ついていかざるを得なかった」と語った通り、ここぞのプレス先導は凄まじかった

マルキ的には「完全に俺がコントロールしている」という自覚があった訳ではなく、単純にサボってた局面もあるだろう。でも彼の「ここは絶対!」「ここはサボっても」なカンピオーネに相応しい経験則に従った局面判断は的確で、何より周囲からの信頼があった「マルキが行くのだから」と

「マルキが行くなら今は全力で行こう」「マルキがサボってるから(スパイクの紐を直してるから)今はブロック作って凌ごう」というナチュラルな共通理解、スイッチ役。そもそも俊輔が心から信頼できるカンピオーネが、Jリーグに何人存在するか。「マルキなら」な信頼感は、簡単には成立しない

サッカーという競技において、また俊輔の周囲を囲む、補完し合う選手という意味においても「会話の必要すらない相互信頼、理解」はとても大事だと思うのです

「マルキのプレスにおけるスイッチ役として果たしていた重要性」に気付いたのは、今季序盤の伊藤翔のプレスに時折「頑張り過ぎてる」感があったから。本当に献身的に行く。少し遅れても行く。後ろが付いてこれなくても行く。結果、チーム全体が後手後手になったのが鹿島戦の後半。メリハリを欠いた

クロスを首の強さだけでゴール角に持ってくヘッド。これを失った事だけでも、始動から「より手数をかけ崩しきるサイド攻撃」への取り組み→難度高くシュートまで至らない、あるいは「ターゲットを増やすため2トップ採用」など、変化を求められている

マルキマルキと、いなくなった選手の事をいつまでもしつこいんだよと思われる方も多いでしょうが、この際全部書いておきます

開幕前に俊輔たちを呼んで「お前ら本当にタイトル取る気あんの?」と問いただしたり、シーズン終盤の磐田戦前に「お前らもう何か勝ち取ったつもりになってんの?」と引き締め直したり。実績あるカンピオーネにしか出来ない発言、態度もピッチ外で示した。いろいろな意味で、スペシャルだった

昨季は俊輔の守備における貢献が凄まじく鬼気迫るものかあり、チームとサポータをも鼓舞し続けたが、今季はそこまでの迫力と頻度ではない。フィジカルコンディションの問題だけでなく、私はマルキ不在の組織的な関係性、相互信頼などにも理由があると感じる

マルキマルキといなくなった選手の事をしつこく書くのは「だからマルキいなくなったから今季は無理!」と言いたいためでは勿論なく、「マルキはそんだけスペシャルだったから、いなくなった以上は結構いろいろ時間をかけて再構築しなきゃ」「そこは受け入れていかなきゃ」という事を言いたい訳で

マルキの不在だけでなく、さっきも少し書いたけど「ドゥトラという、俊輔以外で(ある意味、俊輔以上に)タメを作れる」存在を、今季ほぼピッチに欠いている。意図的に「脱ドゥトラ依存」から抜け出そうと、下平匠を我慢して使っている向きもある

加えてオフが短いキャンプが短い積雪で練習試合できない9年振りACLでリーグと平行して戦うノウハウも乏しい…など今季始動からここまで、再構築が不可避なチームにおいて、厳しい条件が揃いすぎていた。ここは考慮していい部分かと。開幕前から言ってるけど、かなり無理ゲー要素高め

いやまあ「マルキがプレスのスイッチ役を務めていた」っつーのも含め全部、女子高生の妄想だけどね。みんなあんまり真に受けるなよ本当に。自分のイメージを大事にね。サッカーに正解はない。本質的に言語化できないものだけど言語化せずには語り合えない、そこが面白いとこなんだから

当然、マルキーニョスがいなくなって今季ここまでチームが上手く回ってないから、昨季のマルキーニョスを美化してしまってる部分は、絶対あると自分でも思います。はい

樋口監督は1年目ハマトラインタビュで「アンタッチャブルな選手はいますか?」という質問に対し「コンセプトの中心となる、達成度を上げるために重要な選手は何人かいます。ただ、彼らそのものがマリノスのコンセプトになってはダメだと思っています」と答えられました

「個か組織か」の二元論はナンセンス。補完関係を形成する事で、個の特徴を生かし、不得手を補い合う組織作りが肝要。個はチームのために存在するが、チーム(組織)もまた個の(強みを引き出す)ために存在する

例えば、現在首位の鳥栖は組織の力に優れた(昨日の後半の守備連動性は素晴らしかった)チームで、クラブ予算に見合わない好成績を収めている。だが、豊田陽平が抜けても同じスタイルや成績を維持できるか? おそらく不可能。では鳥栖は、尹晶煥監督は「個人頼み」で「組織的ではない」だろうか?

どんなに組織的なチームでも「個人の能力、特性に依存しない」は有り得ない。特にFW、ストライカは。古今東西、最もシンプルなのは「優秀なストライカを獲得し、彼に点を取らせるため逆算したチーム作り」。「どこからでも点が取れるチーム作り」は、優秀なストライカを持たざる組織、監督の慰め

大黒将志34歳は、マリノス在籍時よりもシンプルな縦パスの多い現在の京都で、伸びのびとストライカっぷりを発揮して今季リーグ12節で10得点です