横濱戦術四天王(仮)~マリノスの戦術を読み解く〜

横浜が誇る戦術四天王による、横浜F・マリノスについてのつぶやきをまとめます。 ちなみに、あと2人がみつかりません。

【個人的には「(行く・行かないの)チーム全体の意識共有が不十分」が最大の原因、展開に合わせチームをコントロールする力が低下しているように思えてならない by 蒼井真理】 about レビュー of [2014-J1-5] 横浜 1 v 3 鹿島

蒼井真理


「連敗」「逆転負け」「3失点」鹿島戦の結果を受け、またぞろインターネッツでは「樋口解任論」「中澤・栗原限界論」「ファビオ待望論」が大盛況でスケープゴート探しに躍起だが、少し冷静に3失点の意味、中身を振り返りたいと思う

【後半9分の同点ゴール】鹿島DFラインからのタッチ数少ないビルド。CB5青木剛ボランチ20柴崎岳がターン→右SH25遠藤康→右SB24伊東幸敏→FW11ダヴィへのパスがズレる?→並走するトップ下28土居聖真がそのままの勢いで足元に受け1タッチで抜け出しGKと1対1

【後半9分の同点ゴール】まず1stDFとなる伊藤翔のCB5青木に対するアプローチが遅れておりコース限定が出来ていない[a]。後方からのパスを20柴崎は余裕を持ってターン。富澤が遅れて長い距離アプローチするも全く間に合わず[b]、20柴崎は右前方の25遠藤へパス&ゴー

【後半9分の同点ゴール】25遠藤はワンタッチでタッチ際を上がる右SB24伊東へ。伊東もワンタッチで斜めのパスを28土居の前方スペースへ。この過程で、それぞれ下平匠、兵藤、中町の3人のアプローチが後手にまわり無力化され置き去りにされている[c]

【後半9分の同点ゴール】24伊東のパスがダヴィを通過し、ダヴィに付いていた中澤は28土居に対し苦手な後追いの形に[d]。土居を見るべきポジションの勇蔵が、ボールと土居が抜け出すコースに足を出すが[e]、その直前で土居がワンタッチで僅かにコースを変え抜け出す

検証。まず[a][b][c]の部分、最初からコース限定、プレスの準備が十分でなかった状況で、惰性や勢いでボールホルダに寄せていったのが良くなかった。結果の後追い。特に[b]富澤のアプローチは、完全に遅れて行って、置き去りにされてる

次に[d]24伊東のパスが、ダヴィへのパスがズレたのか28土居が走り込むスペースに出したものなのか。本人にしか分からない事だが、結果的に中澤に後手を踏ませ、土居の足元でなくスペースへのパスとなった事で土居に付いていた中町も無力化させる絶妙のパスとなった

最後の[e]勇蔵の土居に対する対応はどうだったか? 左足でしっかりとブロックにいかず、右足アウトで「軽い対応」をした(ところ直前のワンタッチでかわされた)との誹りは否めないか。この日の勇蔵は、全体的には高い集中力を維持できて良い守備が目立ったのだが

【後半9分の同点ゴール】鹿島要素
 
・後方からの「間で受ける」少ないタッチ数のビルドが見事
・右SB伊東の意図的か懐疑的な、しかし絶妙なラストパス
・28土居のCBの間を割る抜け出しと、GKとの1対1での冷静さ

【後半9分の同点ゴール】マリノス要素

・FW伊藤翔からコース限定、寄せが全く不十分で後手後手
・特に富澤の柴崎へのアプローチは蛮勇に等しい遅れっぷり
ダヴィに釣られ後追いとなってしまった中澤の不運
・勇蔵の足先だけの軽い守備

【後半9分の同点ゴール】双方に様々な要素が絡んだ得点。唯一の原因・犯人など存在しない。チームとして「なぜ前線からの守備があれ程ルーズになっていたか」「なぜ限定や圧力が十分でないのに、不用意なアプローチから後手後手に回る結果を招いたか」しっかり検証・修正すべきだろう
【後半35分の逆転ゴール】柴崎と野沢の「立体的な空間イメージ、2秒後のエリア内の画が描ける想像力」のシンクロと技術が素晴らしい。マリノスDF陣は中澤、勇蔵を筆頭に人とコースに強いが「2秒後をイメージ」する力が弱く、シンプルな連携プレイに脆い。これは資質の問題で、ある程度仕方ない

【後半35分の逆転ゴール】この時間帯、ほぼ全員の足と頭が動いていない。エリア内で完全に棒立ち、ボールウォッチャ。富澤、中澤、勇蔵という堅守3枚看板のなんと緩慢なことか。もう「試合に向けて、そして試合の全ての局面において、心身共に良い準備をしましょう」としか言えない

【後半42分のダメ押し】まず20柴崎の、オフサイドを回避しつつ中澤と勇蔵の間をすり抜ける動き直しの質の高さを賞賛しよう。これは本当に素晴らしい。ちなみに下平匠は確かにライン揃えられてないが、オン・オフサイドには無関係。柴崎と中澤の駆け引き部分で決着

【後半42分のダメ押し】中澤と勇蔵の「シンプルな連携プレイ」に対する受け渡しの脆さ。こういう「下がりながらだけど、決して数的不利ではない」守備で、才能ある選手の連携には簡単に崩される。勇蔵は簡単に背後を取られ無力化されるし、中澤は「気付いた時には手遅れ」で追い付けない

【後半42分のダメ押し】33カイオのドリブルに対する富澤の寄せも、かなりルーズ。厳しく寄せると、ちんたら並走する11ダヴィにスイッチされる危険を見てとった? …時間帯的にもスコア的にも、ただの怠慢のように見える。ちょっと今季ここまでの兄貴のプレイ振りには不満が残る

【鹿島戦の3失点】中澤や勇蔵(と富澤)は確かに失点に絡んでおり、3失点の全てにおいて原因の一部であり責はある。しかしそれは彼らの資質的に「仕方ない」部分も多分にあり(兄貴は別)、チームとして「彼らの脆さ」が出やすい局面を多く作ってしまった事こそ問題とし、追究すべきだと考える

中澤と勇蔵は、確かに「下がりながらの受け渡し」に脆さがあり「2秒後のイメージが不得手で、才能ある即興に翻弄される」傾向は強い。しかし単純な対人守備・シュートブロックや空中戦など「はね返す強さと精度」は傑出しており、総合的にリーグ屈指のCBである事は間違いない

マリノスの堅守は、少なからず中澤と勇蔵の「はね返す強さと精度」に依存している。両者レベルの「はね返す強さと精度」に加え、足元の技術や空間イメージ力、走力も備えたCBはリーグに存在しない。全盛期の(そして滅多に怪我をしない)ネスタでもつれてくるか?

どんな選手にも得意とする分野、不得手なスキルがある。チームとして、それぞれの強みを出し補完し合えるようにするのが重要。局地的なミスや個人的な欠点だけを論うより、「なぜそのような局面となったか」もっと広い視野と、1つ2つ前のプレイまで遡って原因を探るべきだろう

確かに、現在のマリノスは過去にタイトルを獲得した時のような「堅守速攻」スタイルではなく、チームコンセプトと両CBのプレイスタイルに齟齬はある。よってチームとしての、また試合展開に応じた「すり合わせ」や「妥協」は適宜必要になる。それはまた別の話

では、今回問題にすべき『チームとして"中澤や勇蔵の脆さが出やすい局面"を多く作ってしまった原因』は何か? 事象的には「前線からのアプローチが遅れた←→全体が間延びした」これは鶏と卵の関係。結果「守備が後手後手になり、下がりながらの守備を強いられた」あとは単純に「足が止まった」

「守備アプローチが遅れた」「足が止まった」理由は? 試合後の選手コメントでは「今季の試合に臨むコンディション調整」「(行く・行かないの)チーム全体の意識共有が不十分」「攻守の切り替えが遅い、単純な走り負け」などいろいろな声があった。カモベイ1号指摘の通り、ちょっと良くない傾向

唯一絶対的な理由などないだろうし、様々な要素が干渉し合っての結果。サッカーはカオスなゲーム。「結果が後付けで理由を生み出す」事も、そのためにチームが迷いの森、相互不信に陥る事も少なくない。樋口監督以下、上手くすり合わせ対処法を見い出して欲しいものだ

個人的には「(行く・行かないの)チーム全体の意識共有が不十分」が最大の原因であり、そこを修正すべきと考える。例えば「コンディション」や「攻守の切り替え意識」に問題があったとしても、「ならば一度、引いて守り落ち着かせようか」という判断があっても良かった訳で

どうも今季は、昨季に比べ「俊輔・中町・富澤」の3人の試合中の話し合いや、展開に合わせチームをコントロールする力が低下しているように思えてならない。俊輔は新しいバランス軸を探し、富澤は試合毎に目先を変えた果敢な挑戦、中町がバランス維持に注力、的な

当然、昨季は「前年からレギュラ固定のまま」そのバランスを熟成すれば良かったのが、今季は変化を受け入れ新たな方向性を模索しながらの、ACLもある連戦。兵藤が語る通り「連戦だけの影響ではないが」「肉体的にも精神的にも」疲労、余裕を失っている部分があるのではないか

まとめます。鹿島戦の「3失点」そのものは大きな問題ではない。3つとも鮮やかな、相手を賞賛すべき点の大きなゴールであり、マリノス視点では「ある程度仕方ない、短所が表面化した」失点。問題とすべきは、その局面を生み出した背景。チーム状態、原因に対する意識共有について

鹿島戦から中3日でホームACLメルボルン戦。更に中3日でアウェイ新潟戦。そこから5日を挟み、4/12仙台戦から、5/10鳥栖戦まで、1ヵ月で9連戦。しかも実力あるクラブ、不得手な相手との対戦が続く。まずは公式戦の連敗を止める事が肝要だが――

全部の修正、意思統一は不可能。割り切り、捨てる(今はやらない・考えない)判断が大事になる。生真面目な樋口監督だから、修正ポイントを見つけたら手を付けたくなるだろうが、絶対に「全部を100%修正・適応」は無理だから。どこで割り切るか、その見極めが連戦を乗り切るポイントとなる

「結果が後付けで理由を生み出す」のは、何もマイナス面だけに限った話ではない。勝利という結果がついてくれば、選手が試合で手応えさえ得られれば、自然と上手く回り修正されてしまう要素も無数にある。監督に求められるのは、そのため必要な最低限の方向設定と、動機付けを行う事