横濱戦術四天王(仮)~マリノスの戦術を読み解く〜

横浜が誇る戦術四天王による、横浜F・マリノスについてのつぶやきをまとめます。 ちなみに、あと2人がみつかりません。

【奈良輪雄太のチャンスに懸ける強い気持ち、しかと見届けた by 蒼井真理】 about [J1-29] 横浜 1 v 0 広島

首位決戦、広島戦を振り返る。4万近い観衆の下、最高の雰囲気の中で最高の勝利! 兵藤とドゥトラという「不在時に改めて偉大さが分かる」2人を欠く中、優平と奈良輪の新加入選手2人が存在感を見せ勝利に貢献。5試合を残し首位に返り咲く、語るべきもの多い、カタルシスの大きな勝利だった

広島は立ち上がりからロングボールを多用、高い位置から積極的なプレス。未勝利期間を経て「現実路線も採用」と話には聞いていたが、前半の広島は私たちがよく知る「ミシャの作った広島」ではなかった。中町は「いつもの広島に比べてると頑張ってきていた」と表現する

マリノスは過去1年で培われた「広島対策」を変えず、ボランチボランチを食いに行く果敢なスタイル。しかし「前半は相手の良さを出された。寿人さんにも守備ラインを下げられてしまった」と中町が語る通り、ボランチとロングボール&佐藤寿人の動き出しを軽快するDFラインの間隔は大きかった

マリノスの「広島対策」は、2ボランチが2シャドウにマンマーク気味に対応した旧対策に比べ、ボランチは2シャドウを捨て相手のボランチに食いつくため、SBは瞬間的に「対面のWBと2シャドウのどちらに付くか」「外か、絞るか」の判断、CBとの阿吽の呼吸と距離感が要求され非常に難度が高い

21分にリスタートから石原直樹に抜け出され1対1の決定機を哲也がストップ。哲也も「その後はナラも本当に頑張っていた」とコメントで暗に指摘する通り、この場面は奈良輪の「中央への絞り、2シャドウへの警戒」が十分でなかった

直近2度の対戦ではドゥトラとパンゾーが経験に裏打ちされた判断で巧みに絞って対応し2シャドウを消したが、今回は中澤が「こちらの戦い方に対して、どうSBをつり出すか、ボランチを引っ張り出すか、といったところを凄く考えている」と語る通り、広島のマリノス対策も進化していた
マリノスがボールを支配し、広島が前線から強度の高いプレスをしかけロングカウンタ狙い。過去の対戦と趣の異なる展開。奈良輪がミキッチに仕事をさせず、優平は過去3試合より更に躍動。マルキにボールが入らずシュートゼロも、俊輔が3本のシュートを放ち奮闘。決定機は1:1、濃密な前半45分

後半立ち上がり、広島は高萩のドリブルなどタテに勢いある攻勢。マリノスはここでもボランチとCBの距離感が遠く、バイタルを相手の2シャドウに使われる&セカンドボールを拾えない苦しい展開。しかし富澤の惜しいミドルや、哲也の好判断によるキャッチなどで流れを取り戻す

そして55分の先制点。ドゥトラと兵藤の不在のため平時の厚みを欠き、ここまでは学が孤立気味だったマリノスの遅攻唯一にして最大の武器「左サイドのペナ角崩し」が、美しい連動性と破壊的な個の力の融合の中で生まれる

ペナ外ボックス幅でセカンドを拾った俊輔から、オーバラップした奈良輪。ワンタッチで外に開いた学へ。エリア内の優平がCB塩谷を釣る動き、空いたスペースに学が高萩の淡白な対応を振り切りカットイン。小さなシュートフェイントで水本を外しコースを作り、豪快にニアサイドに突き刺す

この先制点にして決勝点は、学の個人技も素晴らしいが、特に言及したいのは「左ペナ角崩し」において不可欠に等しいドゥトラ、相手を混乱させるため絶妙なタイミングで反対サイドから対角に入り込む兵藤を欠く中で、奈良輪と優平が彼らに匹敵する高質の役割を果たした事だ。流麗にして鮮烈

更に6分後の61分、今度は右サイドの連動した崩しからマルキーニョスと優平が相手守備陣を混乱させるフリーラン。優平がフリーとなりパンゾーのクロスを引き出しヘッドで狙うが、叩ききれず惜しくもバーの上。決まってればもう少しラクな試合になったのだが――

その後は次第に「広島の攻勢、耐えるマリノス」の様相に。俊輔や中町の想像通り70分前に広島の守備の足はピタリと止まったが、マリノスも学の先制点、優平のヘッドの後は決定機を生み出せなかった

後半の広島は流石の後方からのビルド&パスワークを見せ、後半のシュート数は6:9、CKは2:6とスタッツ的にも押し込まれたが、GK哲也と両CB、俊輔を中心に全員が素晴らしい集中力と執着心を発揮して完封。「マリノスらしいウノゼロ」で、首位を奪還した

広島戦、個人的なマンオブザマッチはGK榎本哲也。21分の決定機阻止はもちろん、52分の高萩からニアの佐藤寿人へのクロスをキャッチした何気ないポジションと判断。68分は俊輔のパスミスを飛び出して処理、そして終盤の連続ビッグセーブ。高い集中力、入れ込み過ぎず展開を見極める判断。極上

次に名を挙げるなら奈良輪雄太。SBに難しいタスクが要求される広島戦、リーグ初先発が首位決戦というプレッシャの中、名手ミキッチにほぼ仕事をさせず77分に交代に追いやった。1対1での対応よりも、絶妙なポジショニングによるインターセプトが際立った。大一番で高い集中力と堅実性を発揮

奈良輪は懸念されたミキッチへの対人守備でも、俊輔のアドバイスもあり「タテのコースを切り」勇気をもって身体をぶつけてマイボールのスローインにした。63分に切り替えしたミキッチに左足の際どいクロスを許したが、この日の奈良輪に与えられた役割としては責められるべきプレイではない

奈良輪の高い集中力を示す最大のプレイは83分、ミドルシュートを哲也が弾いたボールをエンドに蹴り出しCKに逃れた対応。奈良輪は「哲也がセーブする前に」ゴール方向に走り出している! 哲也が弾いたのを見て反応していたら高萩に詰められていた。勝点3と1を分ける、正にビッグプレイだった

奈良輪は学の先制点にも絡み、インターセプトからの攻撃参加もあった。より直接的な対人守備は頻度も少なく、この試合だけで「あのミキッチを完封したのだから」と評価はできないが「厳しい状況にならないようインターセプトを増やす頭脳的なポジショニング」に持ち味を見せた

「僕はもう相手とか関係なく準備してたんですけど『広島のミキッチは凄い』とか色んな人から言われてたんで。正直もうどうなるのかなと思ってたんですけど…。最高の準備はしてきたんで、これでダメだったら自分はそこまで(の選手)という気持ちでやってたんで」奈良輪雄太

「10年前は僕はジュニアユースとしてこのスタンドで、浦和レッズとのチャンピオンシップで優勝を経験して、こうやってマリノスに選手として戻ってくる事ができて、今度はピッチの上で優勝を経験したいと思います」奈良輪雄太

…奈良輪はヒーローインタビュのコメントが、しっかりしてるだけでなくファンを泣かせるツボを押さえている。2004年の記憶に関してはいろいろ間違いもあるけどw

※2004年のチャンピオンシップ第1戦当時、奈良輪雄太はユース2年。日産スタジアム(当時はネーミングライツ取得前)での試合(河合竜二のゴールで1-0)はH&Aの第1戦であり、優勝が決まったのは埼スタでの第2戦(0-1から延長PK戦の末勝利)

「こんな大一番に出られるなんて考えてもいなかった。押しつぶされそうなプレッシャーがあったけど、せっかくのチャンスなんだからいいプレーができなくても、気持ちを見せるプレーをしないといけないと思ったら体は動いた」

奈良輪雄太のチャンスに懸ける強い気持ち、しかと見届けた

…奈良輪について書いてたら止まらなくなった。もっと書いたけど、リーグ終了後の個人評に書くことがなくなるので寝かせます。広島戦の哲也と奈良輪以外の選手短評は後程